ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
52/100

本要請は「3%」*8という、具体的な賃上げ水準を明示しているという点で、歴史的に極めて異例のことであった*9。また、これに伴い、政府は予算面および税制面での措置を行い、賃上げしやすい環境を整備することを約束し、前者については、平成30年度予算において、労働保険特別会計にて労働生産性向上のための環境整備として賃金アップを図る企業への支援等を行い、後者については、平成30年度税制改正において、所得拡大促進税制を改組し、(1)平均給与等支給額が対前年度比3%以上増加、(2)国内設備投資額が減価償却費の総額の90%以上等の要件を満たす場合に、給与等支給増加額について税額控除ができる制度を整備した。さらに、政府は、2017年に決定した「働き方改革実行計画」に基づき、働き方改革関連法を本年6月29日に成立させるなど、働き方改革の環境づくりに本格的に取り組んでおり、同法案を審議した2018年の通常国会は総理自ら「働き方改革国会」と銘打ったほどである*10。4-1-2.労働者連合は、2018年連合白書で、以下のように述べており、賃上げ率については「2%程度を基準とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め4%程度とする」という目標を3年連続で掲げた。さらに、連合は、2016年より「大手追従・大手準拠などの構造を転換する」という方針を打ち出しており、今年も引き続き、これまでの春闘の賃金波及パターンからの脱却を図る姿勢を示した。*8) 3%の算出方法について、詳らかな試算を政府は公表していないが、民間の算出によれば、例えば以下のようなものがある。 ・ 基本給を一律に底上げするベースアップ(ベア)の1.5%と、年齢に応じて給料が上がる定期昇給(定昇)の1.5%を合算した数字(2017年10月31日日本経済新聞電子版ニュース「諮問会議 「3%賃上げ」で崩れた血判状」) ・ 定期昇給込の実質賃上げ率2%が30年続くと、大企業の年功賃金制の結果と整合的になる(脇田, 2014)。ここから、実質賃上げ率2%と現在のインフレ率1%を併せた、合計3%が賃上げの水準となる。 ・ IMFの提言によれば、3%の賃金引上げを指すとき、「労働生産性上昇分1%」と「物価上昇分2%」となる(齋藤, 2017)*9) この後、2017年12月26日の経団連審議員会、2018年1月5日の経済三団体共催新年祝賀パーティー、同年1月22日の第196回国会総理大臣施政方針演説等においても、安倍総理大臣より同旨の言及あり。*10) 厚生労働省によれば、今回の働き方改革は「働き方改革の総合的かつ継続的な推進」、「長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現等」、「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」が柱とされている。*11) 榊原経団連会長は、2018年1月22日の記者会見において「賃上げは、何か目標を打ち出して、それに向けて頑張るという性格のものではなく、各社の労使交渉の結果を集計したものである。「3%」についても一つの重要な指標ではあるが、あくまで目安であり必達目標ではない」としている。賃上げ要求水準は、それぞれの産業全体の「底上げ・底支え」「格差是正」に寄与する取り組みを強化する観点から、2%程度を基準とし、定期昇給相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め4%程度とする。(連合「2018年連合白書」より抜粋)働き方改革に関しては、前年と比べて「すべての労働者の立場にたった「働き方」の見直し」という項目が要求に加えられ、長時間労働の是正や職場における均等待遇実現に向けた取組について、労使交渉で要求していく旨がより詳細に記述された。政府の働き方改革実行計画に沿った取組などについても積極的に取り上げるとともに、神津里季生連合会長も、今年の春季労使交渉の特徴として、働き方改革が益々大きな役割を果たしていることを指摘した(神津, 2018)。4-1-3.使用者前述したように、経団連は使用者側として、「3%」の賃上げ要請に呼応し、実際に2018年経労委報告で以下の通り述べている。図表4でも確認した労働分配率について、これを賃金決定要素の一つとして考慮すること、消費性向の高い子育て世帯に手当てを重点配分することなどが、同報告に新たに盛り込まれたことも今年の特徴である。労働組合等の要求を踏まえ、賃金決定の大原則に則り、個人消費活性化に向けた「3%の賃金引上げ」との社会的期待を意識しながら、自社の収益に見合った前向きな検討が望まれる。(経団連「2018年経労委報告」より抜粋)経団連が具体的な「目安」*11を掲げるのは異例のことであり、経団連の発表によれば、直近で上げ幅が48 ファイナンス 2018 Jul.

元のページ  ../index.html#52

このブックを見る