ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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の実現に向けて、政労使の三者が意見を述べ合い、包括的な課題解決のための共通認識を得ることを目的として政労使会議が立ち上げられた。この会議で取り決められた主要な合意の1つである、政労使による賃上げに向けた統一的な動きを受けて、翌年の労使交渉から個別労組まで含めたベアの統一要求が復活。その後、春季労使交渉は労使主導のまま、政府から賃上げ要請を受けるという形が定着し、約2%という高い水準の賃上げの流れが足元まで実現している。そして、昨今の新たな潮流として、高まる人手不足感や労働生産性上昇への強い社会的期待などから、「働き方改革」の必要性が増していく中で、政労使それぞれが改革へ取り組んでいることも注目に値するが、こちらについては次章にて詳述する。42018年春季労使交渉第2章で春季労使交渉の成り立ちについてまとめ、第3章では労使交渉のこれまでの成果とその背景について考察した。本章では、こうした分析を受けて、2018年春季労使交渉の社会的な役割や、歴史的な意味について論じていく。4-1.労使交渉に向けた政労使の姿勢2018年の春季労使交渉の議論のポイントは、大きく2つある。1つ目は、初めて、政労使全てが、賃上げについての目安を掲げたことで、賃上げへのより強いコミットメントが各主体に求められることになったということ。2つ目に、同一労働同一賃金や長時間労働の是正等に代表される「働き方改革」というテーマが政労使それぞれで大きく取り挙げられていることである。そこで、本節では、政労使がこの2つのテーマにどのように取り組もうとしているのかについての分析を試みる。政府側の分析については経済財政諮問会議での民間議員の提言や安倍総理大臣の発言、労働者側の分析については連合の「2018春季生活闘争の方針と課題(以下、「2018年連合白書」)」、使用者側の分析については経団連の「2018年度経営労働政策特別委員会報告(以下、「2018年経労委報告」)」や経済三団体(経団連、日本商工会議所、経済同友会)の代表らの発言をそれぞれ参照しながら、政労使が今年の労使交渉に、どのような姿勢で臨んでいるのかについて検討したい。4-1-1.政府2018年の春季労使交渉に向けて、まず口火を切ったのは政府であった。足元の日本経済は、企業業績が過去最高水準となるなど、景気が緩やかに回復している。こうした中、図表4から分かる通り、企業部門の内部留保が過去最大規模になっているものの、労働分配率が過去最低水準にあるなどのアンビバレントな状況を受けて、企業に対して賃上げが強く求められている。こうした指摘を踏まえ、2017年10月26日に開催された第14回経済財政諮問会議において、3名の民間議員から榊原定征経団連会長(当時)に対して「3%」の賃上げ要請が出された。そして、榊原会長は、本要請が経済界に対する「社会的要請」であり、十分に考慮していく旨を返答した。政府としても、同要請を受けて、使用者側に賃上げを呼びかけた。安倍総理大臣は、同会議を締めくくるにあたり、以下のような発言をしている。この4年間、今世紀最高水準の賃上げが続いている。また、安倍内閣では、最低賃金をこの4年間で100円引き上げた。パートで働く方々の時給も過去最高となっている。こうした流れを更に力強く、持続的なものとしていかなければならない。民間議員からも指摘があったが、賃上げは、もはや企業に対する社会的要請だと言える。来春の労使交渉においては、生産性革命をしっかり進める中で、3%の賃上げが実現するよう期待したい。経済界におかれては、前向きな取組を是非ともお願いしたい。(2017年10月26日第14回経済財政諮問会議安倍総理大臣発言より抜粋)図表4:内部留保・労働分配率の推移内部留保労働分配率(右軸)(出典)財務省『法人企業統計』より筆者作成(兆円)(%)161514131211201009080706050403020120005004003002001008075706560(年度) ファイナンス 2018 Jul.47
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