ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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崩壊等の影響もあり、2002年には日本経済団体連合会(以下、「経団連」)がベアを否定した*6ことで、賃上げ率は更に落ち込んだ。その後、いざなみ景気によって徐々に賃上げ率は回復したものの、2009年の世界同時不況や2011年の東日本大震災等で再び低下した。そして、安倍政権が実施した経済政策(アベノミクス)の効果による経済回復とともに、2014年からベアの統一要求が再開されたこともあり、現在に至るまで2%程度の高い賃上げ水準を維持していると言える。3-2. 政労使の役割の変化が労使交渉に与えた影響次に、前節で分析した期間において、政労使の役割の変遷が労使交渉に如何なる影響を与えたのかについて考察する。特に本節では、政府が労使交渉にどのように関わったのかを、これまでの政労使合意に触れながら示していきたい。前述の通り、2002年には、経団連が日本企業の経営状況の逼迫感を理由にベアを完全否定し、連合側もこの状況に理解を示した。そして、労使の共通認識の下、企業が雇用維持を最優先に取り組むことの代償*6) 経団連は、2003年度経営労働政策特別委員会報告で、「デフレスパイラルが危惧される状況下での合理的賃金決定のあり方が問われているが、企業の競争力の維持・強化のためには、名目賃金水準のこれ以上の引き上げは困難であり、ベースアップは論外である。さらに、賃金制度の改革による定期昇給の凍結・見直しも労使の話し合いの対象になりうる」として、ベアの否定のみならず、定期昇給の凍結をも含めた非常に強い主張を行っている。*7) ここでの合意内容は、(1)雇用維持の一層の拡大、(2)職業訓練、職業紹介等のセーフティネットの拡充・強化、(3)就職困難者の訓練期間中の生活の安定確保、長期失業者等の就職の実現、(4)雇用創出の実現、(5)政労使合意の周知徹底等である。に、労働者側からのベアの統一要求は見送られることとなった。2002年には、事態を危機的なものと見た政府の提唱で、3回の政労使合意が取り決められた。そこでは、主にワークシェアリングの推進による雇用維持の重要性についての合意がなされたものの、賃上げに関する言及は見られなかった。連合は、2006年から「賃金改善」を標語として、賃金原資の増加分を全員一律に還元するのではなく、配分方法は個別労組に任せるという方針で要求方法を変更した。その後、景気回復に伴い、2009年に連合が8年ぶりとなるベアの統一要求を行うが、リーマン・ショックによる失業者数の増加によって、雇用維持が再び最優先課題となったため、個別労組でのベア要求にまでは至らなかった(小倉, 2017)。同年、「雇用安定・創出の実現に向けた政労使合意」*7が取りまとめられ、政労使一丸となって、雇用維持に向けた足並みを改めて揃えたと言えるが、2002年同様、ここでも合意の内容が賃上げに踏み込んだものとはならなかった。その後も、東日本大震災等の影響により、日本国内の企業業績が低迷したこともあり、賃上げ率は2%を下回る低い水準を推移した。自民党政権への交代後、2013年に、経済の好循環図表3:賞与・賃上げ率(厚生労働省、経団連、連合)の推移(%)3.532.521.510.501997200005101520171,000900800700600500400300(千円)(出典)厚生労働省『民間主要企業夏季一時金集計』『民間主要企業年末一時金集計』『民間主要企業春季賃上げ集計』 連合『春闘(春季生活闘争)』経団連『春季労使交渉/賞与・一時金妥結状況』より筆者作成夏季賞与(右軸)厚生労働省経団連(大手企業・加重平均)年末賞与(右軸)連合(年)46 ファイナンス 2018 Jul.
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