ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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巻頭言地域創生におけるグローバルの反意語はローカルではなく、 コミュニティである。株式会社umari代表、プロジェクトデザイナー古田 秘馬ここ数年地方創生という言葉がいたるところで使われ、行政はもちろん大企業などでも積極的に地域のプロジェクトを立ち上げる潮流がでてきている。また東日本大震災以降、地域の繋がりや市民活動、コミュニティスペースなども各地域でも増えてきていると感じる。またこれまでになかった新サービスや、メルカリやAirbnbにみるようなCtoCのプラットフォームも多く社会に浸透してきている。この大きな流れは一体どういうことなのかを考えてみたい。大きな時代の変化の時には必ず中心ではなく、対極的にある場所から変化が起きてくる。それは都市における地域であり、体制側における異端者たちであり…明治維新も江戸からではなく薩摩、長州などいち早く新しい考えを取り入れたところからイノベーションが起こっていた。とはいえ、これまでの時代のようにその時代の体制に対してのカウンターカルチャーなだけで時代が変わるほど単純な世の中では今はないと思える。資本主義対社会主義、都会暮らし対田舎暮らし、仕事対プライベート、男性社会対女性社会…現在においても常に対極にある仕組みや思想のようなものが対立をし続けているが、結果的にそのどちらになったとしてもどちらも満足していないというスパイラルに陥っているのではないだろうか?一方で新しい時代をけん引している人・物・事の兆候としてこれが正解とは言わないが、一定の共通のヒントのようなものはあるのではないかと感じている。それが“境界線”である。つまり、これまで対極をなしている物事の“どちらか”ではなく“どちらも”という考えである。例えば都会暮らしでも田舎暮らしでもなく二居住生活であったり、本業と副業という区別ではなく、マルチワークスであったり、自宅でもオフィスでもないサードプレースとしてスターバックスが認知されていることや、男性の気持ちも女性の気持ちも理解するマツコ・デラックスの好感度が高いことも同じ感覚に近いかもしれない。つまりこれまでの対極軸ではなく、オルタナティブな視点からの価値づくりが重要なポイントなのではないかと考えられる。先述のメルカリやAirbnbなども、従来の売り手と買い手、サービス提供者と受益者という対極的な関係を作るのではなく、そのどちらにもなれるというプラットフォームを用意したことが爆発的な普及につながっており、それらのユーザーには一定の共通の価値観をもつコミュニティと化している。多くの大企業などが地域マーケットを意識して積極的に地域への仕掛けを行っているものの、従来のグローバルビジネスモデルを、ローカルに当てはめようとしているために苦戦を強いられていることが多い。グローバルビジネスモデルの本質は大量提供によるコストを抑えて均一化サービスを提供するのだが、ある一定のボリュームがないと成り立たないモデルである。例えば、グローバルな基準で波の荒い海のそばの小屋などは不動産価値としてはまったく値が張りにくいが、サーファーに達にとってはものすごい価値があったり、サッカーワールドカップの決勝戦のボールボーイという仕事は、サッカー好きにはいくら払ってでもやりたいことかもしれないが、サッカーに全く興味がない人々にはただの労働にしかならない。つまり、グローバルに対してローカルという対極にある価値観でブランド化や打ち出しをしようとしても地域は活性化しないし個性がなくなっていってしまうのである。現在における地域創生の大切なポイントの一つは、その地域や新しいビジネスが全方位に向けたものではなく、ある一定の熱烈なコミュニティに支持をうけるものに選択と集中をできるかどうかなのではないだろうか?ファイナンス 2018 Jul.1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。

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