ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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連合結成の意義は、石油労連、JAM(機械・金属産業等)、UAゼンセン(繊維、化学産業等)などをはじめとする傘下産別の統合を発展させたこと、労働4団体だけでなく無所属の産業別組合も加入することで、産業界全体の産別間対立を終息に向かわせたことなどが挙げられる。一方、連合は、金融、医療、マスコミ等での組織化の進捗が芳しくないという問題点も抱えている*4。さらに、連合をはじめとするナショナルセンターは、当初正規労働者のみを対象とした運動を行っていたが、図表2に示されるような、昨今の非正規労働者の増加という労働市場の変化への対応が不十分であるという指摘や、2002年以降の「労使協調」の流れを形成したことで、2013年まで賃金のベースアップ(以下、「ベア」)を行うことができない要因の一部を作ったという指摘もなされている(岩崎・降旗, 2015)。2-4.現在の労使交渉―政労使の協調2013年、政府は長引くデフレからの脱却という安倍政権の最重要課題に立ち向かうため、企業収益、賃金・雇用の拡大につながる経済の好循環を作り上げる必要があると判断した*5。そこで、政府は、同年9月20日に政労使会議を開催し、政労使の三者による議論の場を整えた。この初会合の中で、甘利大臣は「個別の賃金水準や、制度の個別設計については直接の議論の対象としない」として、民間企業の賃金交渉に政府が介入しないとい*4) 労働組合の全国中央組織で、加盟組合のまとめ役を担う組織をナショナルセンターと呼び、連合は日本最大のナショナルセンターとして位置づけられる。連合と同じナショナルセンターとしては、全日本労働組合総連合(全労連)と全国労働組合連絡協議会(全労協)が挙げられる。全労連は、主に日本自治体労働組合総連合(自治労連)、全日本教職員組合(全教)、日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)などの公務員組合、日本医療労働組合連合会(日本医労連)などにより構成されているため、民間準拠方式を採用している春季労使交渉への影響力は連合に比べて小さい。全労協は、自らナショナルセンターと呼称しているわけではないものの、国鉄労働組合(国労)、全国一般労働組合全国協議会(全国一般全国協)など、全国に加盟組織が広がることから、一般的にナショナルセンターとして扱われている。*5) 安倍総理大臣は、2013年9月13日の第19回経済財政諮問会議において、「デフレ脱却が安倍政権の最重要課題であり、その成功の鍵は、企業収益、賃金・雇用の拡大につながる好循環の実現にある。来週にも発足する政府、経営者、労働者の三者の会議においては、その議論を通じて、好循環の実現の道筋をつけていただきたい。」と発言した。う留保を加えつつ、所得拡大促進税制の創設など、政府による賃上げ環境の整備を約束した。そして、同年12月20日に会議決定した「経済の好循環実現に向けた取組」では、こうした政府の取組の下、労使も、各企業の経営状況に即し、経済情勢や企業収益、物価等の動向も勘案しながら十分な議論を行い、企業収益の拡大を賃金上昇につなげていくことで合意した。これ以降、2014年には、12年ぶりに個別労組まで含めたベアの統一要求が復活し、15年ぶりに賃上げ率が2%を超えた。政労使会議は、2013年に5回、2014年に4回、2015年に1回開催され、現在に至るまでの高い水準の賃上げ率の実現に貢献した。こうした政労使が一体となった春季労使交渉への取組は、経済再生や企業の成長のためにも、賃上げによって労働者の士気を高め、新たな付加価値を生む環境づくりが必要であるという労使間の合意形成を促進したこと(荻野, 2015)や、収益の改善を賃金に反映させる企業を増やしたこと(山田, 2017)などが評価されている。3これまでの労使交渉の成果次に、直近20年間の春季労使交渉の賃上げ率の推移を基に、政労使の三者が、それぞれどのような姿勢で春季労使交渉に臨んできたのかについて、定量・定性の両面から考察する。3-1.労使交渉の賃上げ率推移図表3は、政労使それぞれが発表している賃上げ率をグラフにまとめたものである。この図表からは、多少のズレを持つとはいえ、政労使いずれの調査に基づいた指標であっても一定の賃上げ率の推移を確認できる。当時の社会・経済情勢を辿り、この賃上げ率の推移を説明すると、次のようにまとめることができよう。1990年代のバブル崩壊及び1997年に発生した金融危機の影響を受け、企業業績は悪化、賃上げ率は2001年まで下落の一途を辿った。そして、ITバブル図表2:正規労働者・非正規労働者数の推移0201,000252,000303,000354,000405,000456,0005020020304050607080910111213141516(年)(%)(万人)(出典)総務省『労働力調査』より筆者作成正規非正規非正規比率(右軸) ファイナンス 2018 Jul.45
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