ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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交換に参加する町職員とは別の)町職員がファシリテーターとして議論を促し、町職員の書記が意見を板書していった。1回目と2回目の議論の概要を例示すると表5のとおりであった。1回目の通常の議論では日頃住民が感じている身近な課題や要望に関する意見が多く出されていた。2048年の人間になりきって実施した2回目の議論では、「いま」「わたし」という制約を外した自由な視点から、様々な意見が出ていたように見受けられる。もちろん、法被をはおって身なりを変えてもらったとはいえ、直ちに2048年の人間になりきることは難しい。2回目の議論が始まっても「未来はこんな感じになっていれば良い」といった、現在を基準に未来をみる視点で課題を考え、仮想将来世代として考えることの難しさを感じている参加者も一部に見受けられた。しかしながら、時間が経つにつれ、仮想将来世代の視点から考えられる参加者が多くなった。特に、班によっては、「30年前、あれをしていれば良かったな/あれをしておいて良かったな」というキーワードが出てから次々と意見が出てくるようになった。仮想将来世代による思考をいかに活性化するか、今回の取組は有益な示唆を与えている。矢巾町では、今回の住民の意見を受け止め、計画の策定を進めていく考えである。矢巾町では、今後ともフューチャーデザインの手法を用いながら、住民の参加のもとで、計画の検討を進めていくことにしている。6今後の展望(1)分析の質の向上財務状況把握の今後の展望を考えるに際しては、分析の質を高めていくことがすべての前提となる。財務局等において高度でわかりやすい財務分析がおこなわれ、その分析結果を示した診断表が地方公共団体から欲しいと言われるようなものでなければならない。このため、財務省理財局では、財務局等職員の財務分析に係る研修や財務分析システムの充実、マニュアルの作成などに取り組んでいる。各財務局に公認会計士等の高度な専門的知識を有する者を非常勤職員として配置し、彼(女)らの知見を活かしながら、診断表の充実に努めている。(2) 国全体の政策の方向性を踏まえた、指摘の的確性の向上診断表での指摘に際しては、地方自治を尊重することが大切なことであるが、同時に国全体の政策の方向性を踏まえた的確な指摘をおこなうことは、地方公共団体とwin-winの関係をつくることにも資するものである。先述した熊本県南関町議会議員への説明において、大分県の地域ケア会議の活用の事例の紹介をおこなったのはひとつの例である。このほか、国民健康保険の都道府県化のなかで、国民健康保険への一般会計からの繰入の抑制・解消に向けた取組を後押しすることなどが示唆されている。指摘の的確性を高めるためには、理財局、財務局等が国の政策全体に関心を持ち、理解を深めることが必須である。(3)地方財政の「見える化」の活用「経済財政運営と改革の基本方針2015」(2015年6月30日閣議決定)等により、地方財政の「見える化」の取組が進められている。これには公共施設等総合管理計画の策定や、性質別・目的別の住民一人当たりの行政コストの公表、有形固定資産減価償却率を用いたストック情報の見える化、統一的な基準による地方公会計の整備などが含まれる。今後、地方財政の「見える化」の取組を、財務状況把握の分析で可能な限り活用しながら、分析の効率化・高度化につなげていく必要がある。(4) 財務局等マネージメントによる有機的活用質の向上を前提としつつ、財務局等による地方公共団体へのアドヴァイザリー機能を発揮するツールのひとつとして、財務状況把握の活用を図ることも引き続きの課題である。本稿で例示した議会議員や住民向けの説明にとどまらず、経済界、学生、団体の審議会への説明の機会を探るなど、団体の理解のもと、地域の実情に応じ創意工夫をもって取り組むことが望まれる。特に団体執行部に財政に問題意識のある場合、財務局等から客観的な診断を議会や住民などに示すことには可能性がある。「地方自治は民主主義の学校である」(ジェームズ・ブライス)ともいうが、我が国でこの言葉が妥当するなら、財務状況把握の活用は国民22 ファイナンス 2018 Jul.

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