ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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通りであるが、同時に診断表は団体にとっても有益な情報となるものである。このため、財務局等は団体に対して診断表の積極的な活用を促している。また、財務局等はヒアリングを通じ地方公共団体による財政健全化の優れた事例を収集し、その収集事例を必要とする他団体へ紹介するなどの取組もおこなっている。2017年度の財務状況把握において、財務局等が取り組んだ事例を紹介する。(1) 財務状況把握(診断表)の職員への説明[東海財務局]東海財務局では、将来大幅な収入の減少が懸念される団体に対して、計画的な財政運営をおこなう観点から収支計画の作成を慫慂するなど団体の抱える課題を反映した診断表を交付したところ、団体の首長から「財務局からみた財務状況を職員にも認識させてほしい」との依頼を受けた。説明会に参加した団体職員からは「職員一人一人にもっと財政や地方創生のことを考えてほしいと問題意識を持っていたが、説明会の内容は、まさにそれを代弁してくれた」との意見を頂き、団体から再度依頼を受けて二回目の説明会を実施している。二回目の説明会までに団体が収支計画を策定したことから、収支計画を踏まえた将来見通しを分析した上での説明をおこない、双方向のやり取りとなるよう努めた。東海財務局では、説明会で使用する資料のサンプルを用いて、他団体の診断表交付の際にこれらの取組を紹介している。他団体でも説明会の開催を勧めるなど横展開に取り組み、他団体での職員向け説明会の開催などにつながっている。(2) ヒアリング等を通じた収支計画の策定の慫慂[四国財務局]四国財務局によるヒアリングで、今後庁舎の建替え等で借入の増加が見込まれるものの、将来の収支計画を策定していない団体や、過去に収支計画を策定していたが見直しをしていない団体がみられた。このため、これらの団体に対して中長期的な収支計画の策定を慫慂した。団体からは計画の策定について前向きな回答が得られ、今後、四国財務局から計画策定に係るアドバイスをおこないながら、その進捗状況をフォローアップしていくこととしている。(3) ヒアリングを通じた財投施策の周知等 [関東財務局]関東財務局では、各団体が策定した地方版総合戦略の内容を確認しているほか、各地域で開催される地域振興の会議に参加し、団体の課題やニーズの把握に努めている。これにより把握した課題やニーズに対して、財務状況把握のヒアリング等の機会を活用して活用可能と考えられる財投施策の周知をおこなっている。団体から関心が示されれば、具体的な財投機関の担当者を招いてセミナーを開催するなどの取組をおこなっている。関東財務局では、17年度に6地域(参加者は自治体のほか、金融機関、一部のセミナーでは経済団体や民間企業も参加)でセミナー等を開催している。セミナー等の参加者からは「今後の事業展開・事業経営に参考となる内容であった」や「継続して開催してほしい」などの意見を頂いている。以上、団体を対象とする活動を中心に取り上げてきたが、診断表は団体職員による活用にとどまらず、議会や住民などの関係者を巻き込み、団体の財政、さらにはまちづくりを考える材料ともなるものである。「行政キャッシュフロー計算書は、…住民等には財政の持続可能性を…説明(account)するように作られている」(鈴木(2017))。そのため、財務に詳しくない方にも理解しやすいよう記述内容の見直しに取り組みつつ、働きかけをおこない、熊本県南関町で議会議員への説明、岩手県矢巾町で住民への説明と、それぞれはじめての事例が出たところである。以下、これら2つの事例をみる。4熊本県南関町議会議員への診断表の説明[九州財務局](1)経緯、診断表の概要熊本県南関町は、熊本県の北西にある山々に囲まれた自然あふれる県境の町である。人口は約1万人であり、高齢者人口の割合は全国平均や熊本県平均と比べると高い。南関町長はトップセールスで積極的に企業誘致を図っているほか、最近では、廃校になった高校18 ファイナンス 2018 Jul.
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