ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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おり、15年度では1.6ヶ月である。さらに、行政経常収支率は、診断基準(10%)を下回っていることから、積立低水準の状況にある。これらから、診断対象年度(15年度決算)の指標をみる限りは、糸満市は債務高水準や収支低水準の状況にはなく、債務償還能力については留意すべき状況にはないものの、積立低水準の状況にあり、資金繰りについては留意すべき状況にあるとの評価となる。なお、診断表では、表3のように過去10年間の財務指標について診断基準に抵触したところは色付きとすることや、類似団体平均値を示すことなどにより、団体が自らの財務上の位置を把握しやすいよう表現を工夫している。糸満市の診断表では、積立低水準が生じた要因についてヒアリングや行政キャッシュフロー計算書等から分析をおこない、行政経常支出である扶助費や物件費の市負担部分の増加が主な要因であるとの分析結果を示している。表4からも、扶助費が糸満市の財政を圧迫している状況が読み取れる。表4:2015年度の扶助費の状況(糸満市診断表から抜粋)対行政経常収入割合住民一人当たり扶助費糸満市40.2%136.4千円県内平均33.4%127.0千円類似団体平均21.8%87.6千円全国平均27.1%95.8千円糸満市の財政運営に係る留意点として、糸満市が策定した中期的財政見通しを含む財政計画等から、今後も扶助費が膨らみ*10、財務を逼迫させることが見込まれた。このため、診断表では「今後は、歳入確保・歳出抑制の財務健全化に向けた実現可能な対応策を着実に実施すること等、財政運営に当たり留意することが必要と考えられる」との意見を盛り込み、糸満市に対して将来の財務悪化に対する事前の警鐘を発した。糸満市においては、これらの指摘に耳を傾けていただき、市の財政について問題意識を高めてもらう趣旨から、一般職員(52名)向けに診断表を財務省、沖縄総合事務局から直接説明する機会を設けて頂いた。(4) 具体的にどのような事例が、財務上の 問題として見つかっているのか財務状況把握において、具体的にどのような事例が、財務上の問題として見つかっているのだろうか。17年度の事例でみてみたい。17年度には、全市区町村1,741団体のうち277団体にヒアリングを実施した。このうち、「債務高水準」、「積立低水準」、「収支低水準」という「財務上の問題」に該当した団体は55団体であった。内訳は、「債務高水準」に該当した団体が8団体、「積立低水準」に該当した団体が46団体、「収支低水準」に該当した団体が35団体であった*11。その要因を把握したところ、以下の事例を確認している。●「債務高水準」道の駅や観光施設等の施設整備のために地方債を発行した事例や、土地開発公社の保有土地処分が計画どおり進まなかったことにより多額の負担見込額を計上した事例。●「積立低水準」過去の施設整備や公共施設の老朽化対策のために、基金の取り崩しをおこなったほか、近年では、扶助費の増加等により収支状況が悪化し、収支不足を補填するために基金を取り崩している事例。●「収支低水準」団体独自の施策として、子ども医療費助成の支給対象年齢を高校生まで拡大したことやがん検診の無料化により扶助費等が増加している事例。これらの事例は、地方自治において各団体の判断によっておこないうるものであるが、財務状況を踏まえて、財源や負担の見通しなどを熟慮すべきものでもあるため、このような事例を確認した団体に対しては、診断表に記載し、指摘をおこなっている。3財務状況把握を通じた財務局等の アドヴァイザリー機能の発揮財務状況把握は、一義的には財政融資資金の償還確実性を確認するために実施していることは既に述べた*10) 扶助費の行政経常収入に対する割合は、2015年度の40.2%から2020年度には50.8%に上昇する見通し。*11) 複数の「財務上の問題」に該当した団体があることから、計において一致しない。 ファイナンス 2018 Jul.17
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