ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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廣光 俊昭*3/吉岡 律司*4/前尾 良*5/永野 雄亮*6/川口 修*71はじめに財務省の地方支分部局である財務局等においては、財政融資資金の貸し手として借り手である地方公共団体に対して、その財務状況を把握し、財政融資資金の償還確実性を確認する観点から、2005年度より毎年度、地方公共団体(市区町村)の財務状況把握を実施している。この取組の開始の背景には、地方債の許可制から協議制への移行(06年度から)、夕張市の財政再建団体への移行(07年度)など地方公共団体を取り巻く環境の大きな変化があった。財務状況把握は、「行政キャッシュフロー計算書」の作成を通じ、あたかも民間金融機関が借り手の状況を確認するかのように、一義的には債権者である国が借り手の償還確実性を確認するための手段として位置付けられる。有識者による提言なども交え、財務状況把握はその充実・重点化を図っているが、開始から10年超が経過し、17年度からは全国の市区町村ヒアリングの新しいサイクルに入ることなどから、制度的に定着段階に入っているとみることもできる。この状況を踏まえ、本稿は、(1)この財務状況把握という活動を、行政・学識経験者を含め広く一般にわかりやすく紹介し、(2)今後の取組について建設的かつ批判的な意見を頂く機会とすること、を目的として書かれている。以下では、財務状況把握の方法論を、具体例を交えながら説明するとともに、この取組を活用した財務局等による地方公共団体に対するアドヴァイザリー機能の発揮について具体的な事例を用いてみてみる。2財務状況把握の方法論(1)財務状況把握の流れ(図1)地方公共団体の財務状況把握は、まず総務省から各地方公共団体の決算統計データを入手することからはじまる。入手した決算統計データを利用して、財務省理財局において「行政キャッシュフロー計算書」を作成している。この行政キャッシュフロー計算書を作成する理由は、一決算年度における現金預金の流れを「行政活動の部」、「投資活動の部」、「財務活動の部」の3つに区分して表示することにより、活動区分ごとの資金繰りの実態を把握することができるからである*8。表1に市区町村全体の行政キャッシュフロー計算書を掲げてあるので、参照しながら読み進めて頂きたい。「行政活動の部」は、資産形成につながらない行政サービスの経費である行政支出(人件費、物件費、扶助費など)と、一般財源及び行政支出の特定財源からなる行政収入(地方税、地方譲与税・交付金、地方交付税など)から構成される。さらに、行政収入及び行政支出は毎年度経常的に収入・支出されるかどうかを基準として、それぞれ行政経常収入と行政特別収入、行政経常支出と行政特別支出に区分される。「投資活動の部」は、社会資本整備のための支出である普通建設事業費とその特定財源である国庫支出金*1) 執筆分担は、監修(廣光)、1~3(前尾、永野、廣光)、4(川口)、5(廣光、吉岡、永野)、6(前尾、永野、廣光)である。本稿のうち、意見にわたる部分は筆者個人のものであり、その所属する団体のものではないことをお断りしておく。なお、注3~7の所属はいずれも執筆時のものである。*2) 本稿執筆の契機として、かつて財務状況把握の企画に尽力した関係者からご示唆を頂いた。沖縄県糸満市、熊本県南関町、岩手県矢巾町には、財務状況把握の活動をわかりやすく紹介するため、診断表の内容等を具体的に記載することにご了承を頂いた。記して感謝する。本稿に対し鈴木文彦氏(大和総研)から貴重な意見を頂いた。また、矢巾町でのワークショップの実施にあたり、西條辰義(総合地球環境学研究所、高知工科大学)、原圭史郎(大阪大学)、新居理有(高知工科大学)、中川善典(高知工科大学)、北梶陽子(広島大学)の各先生のお力添えを頂いた。本稿の5はワークショップの行政上の報告であり、学術上の報告は別にまとめられる。*3) 財務省理財局計画官(地方財務審査担当)*4) 岩手県矢巾町企画財政課課長補佐*5) 財務省理財局計画官補佐*6) 財務省理財局地方財務審査係長*7) 九州財務局理財部融資課長*8) 歳入歳出決算は、地方税のような行政サービス等に充てることができる収入と、普通建設事業等に使途が限定される国庫支出金や将来返済が必要な地方債収入等が混在している。このため一見しただけでは、当該団体の資金繰り状況や債務償還能力を把握することは困難である。地方向け財政融資における 地方公共団体の財務状況把握について―財務局等によるアドヴァイザリー機能の発揮と 地方公共団体における展開*1*2 ファイナンス 2018 Jul.13
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