ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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6金融セクターのサイバーリスクへの 対処金融セクターにおけるサイバー事案の多発を受け、G7はサイバーセキュリティーの確保を最重要課題の一つと位置づけている。今回の会議では、金融セクターが高度に、グローバルに相互連結する中、大規模なサイバー事案の「発生後」を想定し、そのような事案の影響が、グローバル金融システムにどのように波及するか、どのような国際的協調対応が必要となるか、について議論を行った。この議論を踏まえて、今後、G7のサイバー・エキスパート・グループがG7間の協調の在り方を検討する予定である。7国際課税今回会議では、税の分野における国際協調についても議論を行った。このうち、経済の電子化(デジタル化)に税制上どのように対応するかについては、2020年までに合意に基づく長期的解決策を得るべく、2019年に進捗のアップデートを行うこととされている。また、脱税や租税回避と闘うため、税に関する情報交換やOECD/G20 BEPSプロジェクトのようなグローバルな取組や能力構築を支援していくことが強調された。加えて、開発途上国における税に関する能力構築の取組を強化するため、「税に関する協働のためのプラットフォーム」等の作業が支持された。麻生大臣は、BEPSプロジェクトや税に関する情報交換の強化は国際協調の大きな成功例であり、G7が政治的機運の維持に引き続き大きな役割を果たすべきである、と述べ、経済の電子化への対応について、可能な限り早い時期に具体的な方向性を見出す必要があり、G7が共同歩調をとり議論をリードすべきである、と発言した。G7サミットを翌週に控える中で開催された今回の財務大臣・中央銀行総裁会議では、3月のG20(於、ブエノスアイレス)、4月のG20(於、ワシントン)に引き続き、米国の関税措置に端を発する貿易問題の趨勢に世間の注目が集まった。実際に会議の場でも米国に対する批判が相次ぎ、会議後に議長国から出された議長サマリー*2において、「財務大臣・中央銀行総裁は、このような全員一致の懸念や失望を伝えるように米財務長官に要請した。」とまで記載された。これを踏まえて開催されたG7サミットにおいても、各国首脳がトランプ大統領を詰めかけているような象徴的な写真がメディアでとりあげられたように、貿易の問題に関して紛糾し、「G6+1」と揶揄された。しかし、このように形骸化したかのように描かれるG7像とは対照的に、会議の現場では、カナダ議長下のプライオリティでもある「技術の変化」に関連した諸課題等について、大所高所の議論が展開されていた。技術の進展に伴う経済の新展開に、各国大臣・中銀総裁も、苦慮していることが垣間見え、それぞれのアイディアを持ち寄り議論を交わす様を見ると、なんだか嬉しくもあった。1930年代にジョン・メイナード・ケインズは、技術革新が繁栄を導くと同時に、省力化のペースが速ければ技術的失業が広がることを警告した*3。政府の役割は、まさにこうした中長期的な課題に対応することである。勿論、一朝一夕に解決できる問題は無いため、今回の会議でもG7で何か重要な合意に到ったわけではない。しかしながら、華々しく紙面を賑わせることはなくとも、各国代表がこうして諸国が抱える共通の重要問題について侃侃諤諤の議論を続けていくことには意味があり、一当局者としても思いを新たにした出張であった。【出張者小話】*2) https://g7.gc.ca/en/g7-presidency/themes/investing-growth-works-everyone/g7-ministerial-meeting/chairs-summary-g7-nance-ministers-central-bank-governors/.*3) “We are being aficted with a new disease of which some readers may not yet have heard the name, but of which they will hear a great deal in the years to come̶namely, technological unemployment. This means unemployment due to our discovery of means of economising the use of labour outrunning the pace at which we can nd new uses for labour.” (Keynes, J.M. (1930). Economic possibilities for our grandchildren. Essays in persuasion, pp. 358–73.).12 ファイナンス 2018 Jul.

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