ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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国際局国際機構課長 三好 敏之/課長補佐 瀧村 晴人/企画係長 松浦 晃弘2018年5月31日から6月2日にかけて、カナダを議長国として、カナダ・ウィスラーにて、G7財務大臣・中央銀行総裁会議(以下「G7」)が開催された。日本からは麻生副総理兼財務大臣と黒田日本銀行総裁が出席し、2日間にわたり、世界経済へのリスクや貿易問題、国際機関のガバナンス、包括的成長、暗号資産(仮想通貨)やサイバーリスクへの対応、国際課税など、広範な分野にわたって議論が行われた。本稿では、主な議論の概要を紹介したい。1世界経済のリスクへの対処及び より公平な国際競争条件の促進今回のG7は、米国が、鉄鋼及びアルミニウムの輸入に対する国家安全保障の観点からの追加関税措置につき欧州連合(EU)やカナダに認めていた適用除外措置を解除した直後に開催された。このため会議では、米国の一方的な貿易措置につき、開かれた貿易や世界経済への信頼を損ねるものとの懸念が示されるとともに、自由で公正な、予測可能で互恵的な貿易を推進するための協力関係を取り戻すには、シャルルボワサミットで断固たる行動が必要とされるとの認識が示された。麻生大臣は、自由で公正な貿易を通じて世界経済の成長を高めていくことが重要であると発言した。また、米国による追加関税措置は極めて遺憾であり、一方的な保護主義的措置や報復措置の応酬は、各国産業や消費者に悪影響を与え、どの国の利益にもならない、と訴えた。世界経済に関しては、経済見通しへの主要なリスク、特に最近の市場動向に現れた新興市場経済における潜在的脆弱性が議論され、これらのリスクを引き続*1) この後、6月8日-9日に行われたシャルルボワサミット後の首脳声明では、「新興市場国のリスクへの強靱性が改善しつつある一方で、最近の市場の動きは我々に潜在的な脆弱性を想起させる。我々は、引き続き市場の動向を監視する」との言及がなされている。きしっかりと監視していくこととされた。麻生大臣からは、米国の金利上昇を受けて、一部の新興国の市場の通貨の下落等が見られているが、影響の連鎖が想定される状態ではないこと、新興市場諸国の強靱性が全体としてこれまでに比べれば強化されていること、G7が市場動向に引き続き注意をしていくこと、をG7首脳のメッセージとして出すべきであると発言した。*1加えて、会合では、中国を念頭に「非市場経済国」の国際ルールへの取組についても議論が行われた。低所得国における債務問題への懸念から、債務に関する透明性の向上や債務持続可能性の確保が重要な課題となっているが、麻生大臣からは、債務透明性の向上に当たり、「借り手側」の能力には限界があるため、中国を含む公的債権者に民間債権者を加えた「貸し手側」の取組が不可欠である、また、中国のパリクラブの正式加盟を促していく必要がある、などと発言した。2国際機関のガバナンス強化グローバルな経済システムにおける公平性を確保するために国際機関が果たす役割は重要であるとの認識から、金融活動作業部会(FATF)などの有効性及びガバナンスを強化するために、G7として共に行動するとのコミットメントが改めて示された。また、国際開発金融機関(MDBs)が一つのシステムとしてより効果的な運営を行うことで開発効果を増加させることを目指す取組が歓迎された。麻生大臣からは、MDBsの個性を尊重しつつ、債務持続可能性や環境社会配慮、調達等において世界最高レベルの基準を備えることを目指すべきであると発言した。G7ウィスラーの概要について2018年5月31日~6月2日開催、於カナダ・ウィスラー10 ファイナンス 2018 Jul.
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