ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
12/100
う偽造防止技術が採用されています(図表4参照)。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の記念貨幣も、貨種毎に相応しい偽造防止技術が採用されるなど、最先端の高度な技術により製造されています。500円貨幣は世界的にも高額な貨幣であり、偽造される標的になりやすい貨幣といえます。しかし、これらの偽造防止技術によりその発生*は抑えられています。図表3 五百円貨幣の偽造防止技術潜像加工 ヒミツの数字で お金を守る貨幣を見る角度、つまり光の入射角、反射角による反射光の明暗の差による現象を応用したもの。英国の2ポンド貨をはじめ諸外国の貨幣にも使用されているがが、流通貨幣としての発行は数例のみとなっている。斜めギザ 大量生産型貨幣では世界初貨幣側面のギザを斜めにすることで偽造抵抗力が向上する。五百円ニッケル黄銅貨は、大量生産型の貨幣では世界初の斜めギザを施した貨幣となっている。微細点加工 職人技の微細点が 複製を防止転写等による偽造を防ぐため貨幣模様の中央部(桐部)に微細な穴加工を行ったもの。これを微細点と呼ぶ。微細加工における最先端技術を使用したもので偽造防止効果非常には高い。微細線加工 髪より細いミクロの世界で偽造を防ぐ貨幣上下の文字部「日本国」「五百円」の周りに扇状に微細な線模様を施している。微細線は髪の毛より細く金属彫刻における最先端技術を使用したもので偽造を防ぐ効果は非常に高い。※政府インターネットテレビ「徳光&木佐の知りたいニッポン!」において、通貨(貨幣・紙幣)の偽造防止技術を公開中。⇒https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg16302.html図表4 バイカラー 二重構造が 偽造を歯止め貨幣の中心と外側に異なる金属を用いて、ドーナツ状にしたもの。下記のクラッドと組み合わせた「バイカラー・クラッド」は地方自治法施行60周年記念5百円貨幣に用いられている。クラッド 隠された金属が ミソとなる異なる金属をサンドイッチ状に挟み、3層構造の素材としたもの。東京2020オリンピック・パラリンピック記念貨幣の百円に採用される。―どんなお仕事を担当されていますか。井上 貨幣の製造工程で言えば(P7参照)、成形係は圧あつ穿せん、圧縁と円形焼鈍の部分を担当していますが、実際には圧穿、圧縁、焼鈍、洗浄、脱水・乾燥、計数の6つの工程がひとつのラインとして高度に自動化されています。入局して新たに成形係に配属になると、一つひとつの工程に年単位で携わり、仕事を覚えていきます。私もそうですが、多くの場合、別の係に異動することはなく、成形係の中で6つの工程の技術を磨いていくことになります。―記念貨幣も担当しているのですか。井上 百円、五百円の記念貨幣は担当させていただいています。―どのくらいで一人前になれるのでしょう?井上 すべての工程で一通りの作業ができて、トラブルにも対応できるようになるには、20年から30年はかかると言われています。私自身、入局して28年が経過しましたが、まだまだ勉強しなければいけないことがあると感じています。―とくに難しいところはどんなところですか。井上 例えば圧穿の工程では、コイル状になった圧延板を巻き戻して機械にセットする際は、微調整のために手で押さえたりします。また、圧縁では、貨幣の模様を出しやすくするために周囲に縁をつけるのですが、同じ寸法が出るように機械を微調整しなければなりません。一つひとつが経験と技術を必要とします。―どんなときにやりがいを感じますか。井上 元来モノづくりが好きですし、自分が製造に携わった貨幣を日本中の人が使ってくれていると思うととてもやりがいを感じます。―厚生労働大臣が表彰する2017年度「現代の名工」※にも選出されたそうですね。井上 とてもありがたいことです。円形には直径で±0.01ミリ単位の精度が求められるのですが、その検査と品質維持の技能を評価していただいたようです。※ 現代の名工:20の部門でその道の第一人者(卓越した技能者)として2017年度は全国で149人が表彰を受けた。造幣局の仕事2 名工の技能がオートメーションを成り立たせる現役局員に聞く!貨幣部 貨幣課 成形係 技能長井上和行 さん*) 500円貨幣の流通枚数に対する偽造発見枚数の2016年における割合は、ユーロ貨幣の約1/46です。8 ファイナンス 2018 Jul.
元のページ
../index.html#12