ファイナンス 2018年7月号 Vol.54 No.4
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最先端の技術を利用し 貨幣の偽造を防止記念貨幣は国家的な記念事業として閣議決定を受けて発行されるもので、金融機関を通じて交換が可能なものと素材に貴金属を含み、製造に必要な費用が額面価格を超えるプレミアム貨幣があります。プルーフ貨幣は、貨幣をより美しくするため、表面を鏡のように磨いたもの。製造方法には、表面を磨きあげた極印(ハンコの役目をする金型)を使用する他、模様を鮮明にするため、圧印を2回打ちするなど、特別な製造を行っています。カラーコインは、デザイン性を高めるために色をつけた貨幣で近年、各国で発行されるようになっています。前述のように日本でも青森県で開催された第5回アジア冬季競技大会の記念貨幣に初めてカラー印刷を施しています。これらの記念貨幣はどのようにして製造されるのでしょうか。貨幣の種類によっても異なりますが、ここではカラーコインの製造方法を紹介しましょう。具体的な工程は図表2のように10に分かれています。この過程では、偽造防止のための技術も施されています。例えば通常貨幣の500円貨幣には、(1)潜像加工、(2)斜めギザ、(3)微細点加工、(4)微細線加工の4つの偽造防止技術が採用されているほか(図表3参照)、地方自治施行60周年記念500円貨幣においては、3種類の材質と複雑な構造を持つバイカラー・クラッドとい―現在は係の総括作業長として、全体を総括されているそうですが、これまでにはどのような業務を担当して来られましたか。大里 貨幣製錬課は記念貨幣の金貨、銀貨の製造を担当する部署ですが、その中で貨幣係として圧印、防錆塗装、印刷の3つの工程を経験してきました。―どのような部分が難しいですか。大里 例えば防錆塗装では、一度に60枚の貨幣に塗装を施すのですが、トラブルが発生したときは60枚すべて不全になってしまいます。自分の工程で不全が起きてしまうと落ち込みますね。誰も責めたりはしませんが、記念貨幣の材料は通常の貨幣よりも高価なものを使用していますので、無駄になるコストも大きく、責任を感じます。―ほこりなどが入ってしまうこともありますか。大里 それを避けるためにクリーンルームで作業をしていますが、人の出入りもあるので100%は避けられません。床、壁、天井のすべてを毎日モップで水拭きをしています。―どんなときにやりがいを感じますか。大里 代々の総括作業長が私の提案を受け入れてくれ、さまざまなことに挑戦させてくれたのがうれしかったです。例えば、防錆塗装はミクロン単位の範囲で塗装の厚さが決まっていますが、私はできるだけ薄くして塗装が目立たないようにしたいと考えました。そこで規定の範囲内で薄くすることを提案したところ「やってみろ」と言ってくれました。実際にやってみると「前よりもよくなったな」と評価してくれました。いまは私が総括作業長の立場になりましたので、部下の提案を積極的に受け入れる姿勢を受け継いでいきたいと考えています。造幣局の仕事1 額に汗する準備と工夫が高度な技術を確実にする現役局員に聞く!貨幣部 貨幣製錬課貨幣係 総括作業長大里謙一 さん図表2 カラーコインの製造工程プルーフ特有の光沢を出しやすくするため、研磨機により円形表面を磨いて、光沢を出します。6 円形研磨表面が磨かれた円形に貨幣の模様をプレスします。貨幣の模様をより鮮明にするため、2回プレスします。7 圧印変色等を防止するため、貨幣全面に防錆塗料を塗布します。8 防錆塗装色ごとに作成した版を貨幣の表面に繰り返し重ね印刷し、デザイン通りの色を出します。9 カラー印刷金や銀などの貨幣の材料を電気炉で溶かして板状(鋳造板)にし、コイル状に巻き取ります。1 溶解コイル状に巻き取られた鋳造板を平らに延ばして、貨幣の厚みにします。これを圧延板と言います。2 圧延圧延板を貨幣の形に打ち抜きます。貨幣の形に打ち抜かれたものを造幣局では、円形(えんぎょう)と呼んでいます。3 圧穿貨幣の模様を出しやすくするため円形の周囲に縁をつけます。4 圧縁さらに貨幣の模様を出しやすくするため、円形に熱を加えて軟らかくします。5 円形焼鈍圧印された貨幣の模様やカラー印刷の状態を検査し、合格した貨幣を丁寧にケースに組み込みます。10 検査・組み込み ファイナンス 2018 Jul.72020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会記念貨幣について特集

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