ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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リーフレット作成、租税の役割などを認識してもらうためのポスターの作成のほか、税務に関するスローガンコンテストの実施などを予定しています。自分たちのプロジェクトで作成した成果物がカンボジア全土に掲載され、全国民の目に触れ、徐々に理解して貰う過程を想像するだけでワクワクします。但し、このように内容は盛り沢山ですが、成果物を出すこと自体が目的ではなく、プロジェクトを通じ、カンボジア政府職員と共同作業を行い、その作成過程を学んで頂き、我々がいなくなっても彼らだけで、同等或いはそれ以上のモノを作り上げていく能力を備えて貰うのが私の使命です。ある日のセミナーにBattambang州副知事が参加され、ご挨拶を頂いた際、非常にインパクトのあるお話がありました。「日本は広島、長崎に原爆が落とされ、多くの貴重な人材を失いました。カンボジアもクメール・ルージュにより人材を失いました。日本とカンボジアの違いは、日本では優秀な人材が少しは生き残った一方、カンボジアはそうした人々は優先的に殺され、一人も残らなかったことです。このため、国の発展には人材育成が必須です。」(2)王立プノンペン大学客員教授上記プロジェクトに基づき、現在、王立プノンペン大学で教鞭をとっています。教育専攻35名とビジネス専攻55名の4年生に対し、最近のトピックスを取り上げ、税制・税務行政を中心に、政治・財政・経済など幅広く、日本とカンボジアの制度比較論を展開しています。カンボジア人学生は非常に真面目ですが、分析能力と持論展開が非常に苦手であるため、比較だけではなく、賛否両論(Pros/Cons)の分析とともに、それらのカンボジアへの適用方法・応用方法をディスカッションを通じて実践的かつ自立的に考えてもらっており、ひいては将来のカンボジアの発展に寄与する人材に育成して欲しいものです。税については、大学生であっても知識がそれほどなく、VAT(付加価値税)と彼らの最大財産であるバイクの税金を除いてほとんど知りません(現在バイクは全て非課税)。実際に学生に聞いてみても、親御さんと税金について話をしたことも聞いたこともない学生がほとんどです。日本、カンボジア問わず、税金について理解してもらうのは結構難しいですね。カンボジアの大学での授業は、日本やアメリカの大学とは様子が全く異なります。国立大学の学生は、教員が教室に入ると全員が起立して「よろしくお願いします」、終わると「ありがとうございました」と挨拶します。冷房はなく、扇風機のみです。カンボジアの大学は、3部制です。午前の部(7時30分~11時)、午後の部(14時~17時)、夜の部(17時30分~20時30分)があり、原則、2つの部にまたがって単位をとることはありません。このため、人によっては午前の部で英語学を専攻し、午後には別の大学で経済学を学んでいる人もいますし、働きながら学ぶ学生も非常に多いです。大学には原則、日本のようなクラブ、サークルはありません。また、国立大学の学生には制服があり、原則男女とも、白色(または薄い青色)の上着(といってもシャツのみです)と黒色のズボンまたはスカートをはいています。なお、本年度は7月の第2週に後期試験が終わるため、私は担当した4年生の卒業式に参加し、彼らの旅立ちをお祝いするのを楽しみにしていたところ、驚きの事実が判明しました。なんと卒業式がないのです。特に本年は7月の国政選挙がある関係で卒業式が全くないのですが、カンボジアでは、通常でも卒業後、早くて1年後、場合によっては3~4年後に卒業式が挙行されるようです。したがって、残念ながら教え子の卒業式は来年以降までおあずけです。また、カンボジアには卒業証書というものは存在せず、依頼に基づき卒業証明書が発行されるだけのようです。日本で当たり前に行ってきたことが、カンボジアでは存在しない、想定すらしていないことは非常に大きな驚きでした。(以下、次号に続く)プロフィール武藤 静城(むとう しずき)1987年より国税庁(東京国税局)を皮切りに、大蔵省大臣官房調査企画課(現財務省総合政策課)、財政金融研究所(現財務総合政策研究所)にて、ドイツ連邦銀行ウォッチャーとしてドイツ経済金融分析を担当したほか、ODA業務に従事。この間、米国コーネル大学行政大学院に留学(行政学修士)。税務大学校では国際研修担当教官として、海外の税務行政官に税法・税務行政を指導した後、国税庁ニューヨーク駐在員(長期出張者)として従事。東京国税局では、調査部にて主に移転価格税制を中心とした国際課税を担当。2015年より現職。80 ファイナンス 2018 Jun.海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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