ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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幹線道路が約200メートルにわたり完全封鎖されました。さらに、近くに住む私のアパートのインターネット、テレビが全く繋がらなくなりました。後日、アパートから「(葬儀とは記載されていませんでしたが)政府からの連絡でインターネット回線、テレビ回線が使えません。再開見込みは不明です」とのレターが届きました。知人にその理由を問うたところ、死者の頭上を電波が通るのは、失礼にあたるらしく、政府高官の場合は稀にこのような措置がとられるとのことでした。3 カンボジアで3つの顔を持つ男私はカンボジアでは3つの顔を持っています。すなわち、カンボジア経済財政省租税総局チーフアドバイザー、王立プノンペン大学客員教授、カンボジア空手連盟アドバイザーの3つです。(1) カンボジア経済財政省租税総局チーフアドバイザー先に述べましたように、私は、現在カンボジア経済財政省租税総局チーフアドバイザー(JICA技術協力専門家)としてプロジェクトの責任を担っており、その業務を少し紹介させて下さい。プロジェクトは、2015年8月開始の“Project for Capacity Development of GDT under the Framework of PFM Reform, Phase 2”で、カンボジア税務職員の人材育成を行っています。本プロジェクトは、ODA(政府開発援助)のうちTA(技術協力、知的支援)を担当するものです。人材育成を通じ、税制、税務行政、そして納税者サービスを改善し、ひいてはそれらがカンボジアの税収増加につながり、この国の発展に寄与していくという構図です。国が変われば当然、組織も変わりますが、カンボジア経済財政省租税総局は、日本の財務省主税局と国税庁を2つ合わせたような組織で、税制の立案から税務行政までを広く所掌しています。ここで、ODAって何? という人のために、簡単に仕組みを示すと以下のとおりです。ODA(政府開発援助)二国間援助多国間援助JICA技術協力有償資金協力無償資金協力国際緊急援助調査・研究市民参加協力※国際機関への拠出専門家派遣研修員受入技術協力プロジェクト開発計画調査型技術協力具体的メニュー…etcetc…カンボジアでは、本プロジェクト開始直後の2016年1月、税務上の歴史に残る大改革が遂行されました。これまでの推計課税制度が全面廃止され、全国民は申告納税制度に移行したのです。本プロジェクトでは、納税者サービス改善のため、2016年1月から実施されたSAF(簡易課税)制度の導入・普及支援のほか、税務職員及び納税者教育、租税教育・広報活動の導入と充実などをPDM(Project Design Matrix)に基づき実施しています。SAFとは、Simplified Accounting Formatの略で、これまで帳簿をつけたことのない小規模納税者に、いきなり詳細な帳簿記帳を要求するのは酷なため、Sales(売上)、Purchase(仕入)、Inventory(在庫)という3つの簡単な帳簿記入だけで、申告を認めようというものです。日本の国税庁定員55,674人(平成30年度定員)に対し、カンボジア租税総局は1,911人(2018年1月)と日本の約30分の1しかいません。カンボジアの面積が日本の2分の1、人口が8分の1であるとしても極めて少ない税務職員です。法人や個人事業者の場合、年間売上が250百万リエル(約62,500ドル、約675万円)以下の場合、納税義務がありません。納税義務を有するか否かは、所得ではなく売上で決定されるため、物価水準(町中で食べられる一般的な朝食“バイサイチュルク”は、約120円程度です)から鑑みますと、年間675万円もの売上をあげる小規模事業者は、単価が高く、継続して日々の売上のあるホテル(ゲストハウス)、ガソリンスタンド、建築資材など特定の業者に限られ、結果として納税者数が少ないのが現状です。ここでは、紙面の関係で、活動の一つ、租税教育・78 ファイナンス 2018 Jun.連 載 ■ 海外ウォッチャー

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