ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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生活を通じて得た事実、事象、そして3都市の「郷」などを、実体験に基づき、時折、日本との比較を行いながら、海外生活に必要な条件などを色々な角度から紹介していこうと思います。読者の皆様が、世界のどこに行こうとも、その「郷」においてリスクを最小化し、何かしら生きていくヒントを掴んで頂ければ幸いです。本稿では、現在の赴任先プノンペン→ニューヨーク→イサカ(ニューヨーク州)と新→旧の時系列で巡りたいと思います。では、孤軍奮闘三都物語の開幕です。なお、本稿における見解は、全て筆者の個人的なものであることをお断りさせて頂きます。2  カンボジアあるある物語~初の開発途上国駐在編(1)カンボジアってどんな国?日本にいる皆さんに「カンボジアってどんな国?」「どんなイメージ?」と質問するとどんな答えが返ってくるのでしょう? 実際、何人もの方々にお伺いしましたが、汚い、危ない、ハエ、(食事が)まずい、貧しい、ごみの山、汚職、地雷、凸凹の未舗装道路などなど、です。いやー、言いたい放題ですね。海外に住んでいるとなぜかその国を第二の故郷のように思えてきて、嫌なこととか、マイナスのことを言われるとなぜか、無性に腹が立ち、思わず反論してしまいます。「そういう部分もあるけど、それが全てではないよ。一度来てごらん。そうするとわかるから」と。そう百聞は一見に如かずです。実際、私がカンボジアに赴任する前(赴任後も、実際にプノンペンを訪れ、自分の目で確かめるまで)、両親、特に母親は「殺されたらどうするの? 毎日下痢するんじゃないの、大丈夫?」などと心配な言葉で溢れていました。これは確かにカンボジアの悲しい1975年から1978年にかけてのクメール・ルージュのポルポト政権時代、そして1993年の国連カンボジア暫定行政機構(UNTAC)下での日本人の殺害など、暗い過去を鑑みれば当然のことかもしれません。しかし、実際にプノンペンに来ると皆さん「意外と綺麗で、発展しているよね」「食事は日本より安くて美味しい」「また来たい」などと改心(?)のお言葉を下さいます。統計で見ると、カンボジアは、面積18万1,035平方キロメートル(日本の約2分の1)、人口は1,506万人(日本の約8分の1、東京都とほぼ同じ)です。首都プノンペンの人口は184万人です(在留邦人数も2017年には3,000人を超えています)。約40年前には、総人口700~800万人だったようですが、クメール・ルージュにより200万とも300万ともいわれる人々が虐殺された史実を考えると非常に悲しいものがあります。なお、クメール・ルージュ直後の人口の85%は14歳以下であったともいわれています。経済・産業統計を見ると、産業別人口割合は第一次産業42%、第二次産業26%、第三次産業33%と農業主体の国です。また、ここ数年のGDP成長率は約7%前後で順調に推移しており、1人当たりGDPも2016年には1,300ドルまで増加しています。また貿易面では、輸出入額ともに増加しています(2016年では、日本の898百万ドルの赤字)。ここで、驚きの新聞記事を一つ紹介しましょう。カンボジアの新聞Phnom Penh Post(2018年2月11日)によると、カンボジアで最も規模の大きいカジノを経営するナガワールド2017年のVIP顧客によるカジノでの賭け金が、211億ドル(約2兆1,600億円)となり、2016年のカンボジアのGDP総額200億2000万ドルを超えたといいます。特に中国人の訪問が活発で、2016年ナガワールドのカジノに訪れた人数は前年比40%増の120万人に達しているそうです。確かに街中どこでも中国人を見かけ、どこにでも中国語の看板が溢れ、建設中の高層ビルで中国語の広告表示がないものは見たことはありません。また、カンボジアは世界銀行の統計で見てもいわゆる最も貧しい国の一つだったのですが、2016年の見直しで、これまでの「低所得国」から「低・中所得国」に格上げされました。これは世界銀行の所得区分が、1人あたり国民総所得(GNI)を基準に決定されるなか、カンボジアの2015年GNIが1,070ドルに達したことから、1,025ドル以下に分類される「低所得」から脱し、「低・中所得国」に格上げされたのです(因みに日本のGNIは、36,680ドルです)。但し、国連の統計基準では、引き続き最下位の「後発開発途上国(LDC)」のままです(東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国のうちLDCは、カンボジア、ミャンマー、ラオスの3カ国のみです)。 ファイナンス 2018 Jun.75海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連 載 ■ 海外ウォッチャー

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