ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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4.2.2 経常収支と為替の関係また、対外バランス評価では、経常収支と実質実効為替レートの間に関係性があることが前提になっているが、近年、国際的にみて経常収支と実質為替レートとの相関は低下しているとの実証分析の結果が出始めている。例えば、Ollivaud et al.(2015)は貿易収支だけでなく、所得収支についても為替レートとの関係性が低いことを日本の事例を挙げて指摘している。2016年に公表されたIMFの「対外部門の安定性に関する報告書(ESR)」においては、一般的には為替レートと貿易収支には連関が引き続き存在すると結論づけてはいるものの、日本など特定の国に関しては例外的に貿易と為替レートの関係性が薄れていることを指摘している。実際、清水・佐藤(2014)や中島・渡部(2017)は近年、日本における貿易収支と為替レートの関係性が低下していることを異なるモデルを用いて示している。4.2.3 長期的な視点でみた対外不均衡の動向我が国は1980年以降、長期的に経常収支黒字を計上しているがゆえ、我が国の経常黒字が批判されることは多い。もっとも、世界的な視点で長期の対外不均衡の推移をみると、異なる見方ができる。図表4(上、Monge-Naranjo and Ueda 2017より抜粋)は、1970年以降における主要国の対外資産の推移についてみたものであるが、この図表が示す通り、日本の対外資産が他国を追い抜いたタイミングは、1980年中盤以降であり、それまで長期にわたり世界一の対外資産を保有していた国は米国であることがわかる。さらにこれよりさかのぼり、戦前の金保有高(金本位制のもとでの重要な対外資産)をみると(図表4下)、米国が世界一の資産国というのも一時的なものであり、特に1900年以前については英国やフランスの方が多大な資産を保有していたことがわかる。Monge-Naranjo and Ueda(2017)は、これらの歴史的事実に鑑み、高度成長軌道に乗った国が対外資産を積み上げる傾向があることを示す理論モデルを提図表4 長期でみた対外不均衡(出所)Monge-Naranjo and Ueda(2017)より抜粋-10-505101520UKFranceGermanyUSAJapanChina(%)010203040506070809010018452010200820062004200220001998199619941992199019881986198419821980197819761974197219701850185518601865187018751880188518901895190019051910191519201925193019351940UKFranceGermanyUSAJapan(%)72 ファイナンス 2018 Jun.連 載 ■ 日本経済を考える

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