ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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う同一の評価であったが、実質実効為替レートについては「弱い(undervalued)」という評価がなされていた。我が国の経常収支に対する評価の特徴は評価モデルから導き出された結果の後なされるIMFスタッフによる調整部分が大きい点である。2017年の評価では、一時的な要素として、原発停止によりエネルギー輸入が現在一時的に多いこと等を勘案して、経常収支の構造的実績値(対GDP比)が3.1%から3.3%へ上方調整されている。一方、経常収支の規範値については、日本固有の構造的な要因として、国内需要と輸入を押し下げている国内経済の歪みが構造改革により除去できた場合の効果、および生産拠点の海外移転による構造的な輸出の低調さを考慮し、3.4%というモデル結果から1.3%~3.3%(中央値は2.3%)へと下方調整されている。したがって、調整前にはありうべき範囲内におさまっていたのが、調整後には範囲外となり、「若干大きい」という評価になった。しかしながら、スタッフの調整には、若干首を傾げざるを得ないところもある。例えば、構造改革は、需要喚起策というよりは、通常、生産性の向上策と考えられ、それに伴い、輸出増加がもたらされるはずである。また、スタッフの仮定している我が国の財政ポジションは、かなり現状を追認しているが、現状の財政ポジションがありうべき政策というのは、IMFの他国への議論と整合的とは思われない。より健全な財政運営を仮定すれば、通常は輸入減少がもたらされる。いずれにせよ、日本の経常収支の規範値がより黒字側に動いてもおかしくはない。なお、実質実効為替レートへの評価については、3節で記載したモデルによる評価は行わず、経常収支の結果をベースに、為替との弾力性(感応度)で割ることで算出している。4.2  近年の日本の経常収支を考えるうえでの諸論点4.2.1 経常収支に占める所得収支の重要性近年における我が国の経常収支の動きを考えるうえで、所得収支(第一次所得収支)の重要性が増している。図表3は我が国における経常収支の推移であるが、2000年以降は所得収支の割合が増えており、特に、2010年以降は所得収支が経常黒字に大きく寄与していることが確認される。第一次所得収支は主に「対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等」であるがゆえ、日本における家計や企業が海外投資を積極的に行ってきたことが一因と考えられる。この現象に対して対外バランス評価モデルでは、貯蓄の一つの決定要因として対外純資産を変数に含めること等で、対外純債権国の経常収支の規範値が高めになるようモデル上一定の考慮がなされている。一方で、グロスで見た対外資産と対外負債のそれぞれの収益率に、各国間で大きなばらつきが存在する点は考慮されていない。たとえば、米国は純債務国でありながら所得収支は黒字である一方、シンガポールは純債権国であるものの所得収支は赤字であり、対外純資産のみならず、対外資産と対外負債の平均利回りの差異が各国の所得収支に影響を与えている可能性がある。日本は各国と比べ対外純資産に比して所得黒字が比較的大きい傾向にあり、対外資産と負債の平均利回り差の要素も加味したほうが、我が国を含めた各国の経常収支の規範値をよりうまく捉えられる可能性がある。図表3 日本における経常収支とその内訳の推移-20-100102030401996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017貿易収支サービス収支第一次所得収支第二次所得収支経常収支(兆円) ファイナンス 2018 Jun.71シリーズ 日本経済を考える 78連 載 ■ 日本経済を考える

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