ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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EBA norm=CA*=α̂+β̂1x1+…+β̂nxn+γ̂1p1*+…+γ̂mpm*(6)すなわち、IMFが対外バランス評価における望ましい水準から乖離は、実際の政策変数(p1,…,pm)と望ましい政策変数(p1*,…,pm*)のギャップで評価されることになる。ここではIMFワーキングペーパー(Phillips et al. 2013)に従い具体例を用いて上記の意味合いを考える。たとえば政策変数である「構造的財政収支/GDP」が経常収支に与える寄与度(γscal)が0.32であるとする。その一方、ある国の財政収支(循環調整後、対GDP比)が▲6%であり、長期的に望ましい財政収支が0%とする。この場合、財政収支がもたらす規範値からの乖離は、0.32×(-6%-0%)=▲1.92%という形で算出される。なお、対外バランス評価モデルにおいて、経常収支については「政策変数」は4変数、「構造変数」については17変数用いている(各変数は平均ないし取引相手国からの乖離等で調整している)。説明変数の一*9) 後述する通り、我が国に対する実質実効為替レートの評価については為替感応度を用いて算出しているため、紙面の関係上、ここでは実質実効為替レートについては省略している。詳細はPhillips et al.(2013)などを参照のこと。*10) 詳細はIMF(2016, 2017)等を参照されたい。*11) 2017年での評価は2016年のデータが用いられている。2016年での評価は2015年のデータが用いられている。覧は図表2に記載されている*9。政策変数については「構造的財政収支/GDP」、「公的医療費用/GDP」、「(外貨準備残高の変化/GDP)×資本移動に関する指数(0~1で表記)」、「民間信用/GDP」の4変数である。4.日本への評価および諸論点4.1 日本に対する評価の概要ここまで対外バランス評価モデルの概要について解説を行ってきたが、ここからは我が国を例にとって、「対外部門の安定性に関する報告書(ESR)」による評価および諸論点について概観する*10。2017年における日本への評価では、経常収支については「若干大きい(moderately stronger)」という評価である一方、実質実効為替レートについては、「中長期的なファンダメンタルズ及び望ましい政策に概ね沿っている(broadly in line with medium-term fundamentals and desirable policies)」という評価がなされている*11。一方、2016年における評価では、経常収支については「若干大きい(moderately stronger)」とい図表2 回帰分析で用いられる説明変数(経常収支のケース)構造 変数(1)GDPギャップ(平均との乖離)(2)今後5年間の実質GDP成長率の予測(平均との乖離)(3)対外純資産/GDP(4)対外純資産/GDP×ダミー変数*1(5)金融セクター・ダミー変数*2(6)石油と天然ガスの貿易収支×資源の一過性(平均との乖離)(7)従属人口比率*3(平均との乖離)(8)人口増加率(平均との乖離)(9)ICRGデータに基づくリスク値(平均との乖離)(10)世界の外貨準備残高に占める自国通貨の割合(11)IV(平均との乖離)*4×(1-資本移動に関する指数*5)(12)IV(平均との乖離)*4×(1-資本移動に関する指数*5)×世界の外貨準備残高に占める自国通貨の割合(13)1人当たりGDP/上位3カ国の1人当たりGDP(14)(1人当たりGDP/上位3カ国の1人当たりGDP)×(1-資本移動に関する指数*5)(15)コモディティの交易条件×貿易の開放性(16)従属人口比率*3の相対値×従属人口比率*3の成長率(17)従属人口比率*3の成長率の相対値×従属人口比率*3政策 変数(1)構造的財政収支/GDP(平均との乖離)(2)公的医療費用/GDP(平均との乖離)(3)(外貨準備残高の変化/GDP)×資本移動に関する指数*5(平均との乖離)(4)民間信用/GDP(平均との乖離)*1)対外純資産/GDPが▲60%より小さければ1を取るダミー変数*2)オランダ、シンガポール、ベルギー(初期のみ)であれば1を取るダミー変数*3)従属人口比率:65歳以上の人口/30~65歳の人口*4)米株式市場のインプライド・ボラティリティ*5)0~1で表記70 ファイナンス 2018 Jun.連 載 ■ 日本経済を考える

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