ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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たがって、国際的に辻褄が合うようCGERを改良・発展したものとして2012年から対外バランス評価モデルが採用された。2.3 評価のプロセス対外バランス評価モデルは運用の中で徐々に問題点が明らかになっており、それらを克服すべく、数年ごとに改善されてきている。また、評価を行うに際し、多数の国を同時に取り扱うが、必ずしもすべての国で十分なデータが手に入るとは限らない。それゆえ、最終的な「対外部門の安定性に関する報告書(ESR)」では対外バランス評価モデルをベースに大枠の評価をした後に、各国毎の担当者等による調整がなされている。具体的には、ありうべき値について、4つのステップに基づき評価がなされている。以下では経常収支のケースを取り上げ、そのプロセスを説明する(図表1)*4。・第一のステップ:まず、経常収支を説明する変数を「政策変数」と「構造変数」に分類する。そして、両者のデータを用いたうえで回帰分析を行い、それぞれの変数の経常収支への寄与度を推定する。・第二のステップ:第一のステップで推定した各変数*4) Obstfeld(2017)を参照。の寄与度を用いて、政策変数については「ありうべき水準」に置き換えて、「ありうべき経常収支」を推定する。・第三のステップ:国特有の状況をIMFの各国担当者等が加味したうえで調整を加える。これは対外バランス評価において用いられるモデルが必ずしも完全ではないため、各国経済を分析しているスタッフの意見を反映させるとともに、世界全体の国際収支の帳尻をあわせるプロセスといえる。・第四のステップ:実際の経常収支から季節性などの循環要素を除き調整したうえで、スタッフの意見も反映したありうべき水準からのギャップを算出する。ESRでは、上記のプロセスにより算出された値を用いて定性的な評価を加えている。具体的には、経常収支が対GDP比で1%以上乖離する場合、6つの区分(詳細は図表1を参照)に分けて「大きい(strong)」ないし「不足(weak)」との評価を行っている。逆に、経常収支が1%以内に収まっている場合、「中長期的なファンダメンタルズ及び望ましい政策に概ね沿っている(broadly in line with medium-term fundamentals and desirable policies)」と評価される。図表1 対外バランス評価における4ステップ(経常収支のケース)ステップ1:モデルの推定(EBA Model)● 「政策変数」と「構造変数」を用いて回帰分析を行うステップ2:モデルにより「ありうべき水準」(規範値)を推定(EBA Norm)● 政策変数について、「実際の値」から「ありうべき値」に置き換えることで、「ありうべき水準」を推定ステップ3:各国担当者等により「ありうべき水準」の調整(Sta-Assessed Norm)● モデルでとらえられない要因を各国担当者等が調整ステップ4:経常収支ギャップを算出(Current Account Gap)● 実際の経常収支と調整後の「ありうべき水準」の差で経常収支ギャップを算出上記を前提にギャップ(対GDP)を算出。その値に基づき、経常収支についてありうべき水準と比べて下記の判断を行う。□若干不足(moderately weaker)□若干大きい(moderately stronger)・▲2%~▲1%・1%~2%□不足(weaker)□大きい(stronger)・▲4%~▲2%・2%~4%□かなり不足(substantially weaker)□かなり大きい(substantially stronger)・▲4%以上・4%以上もしステップ4のギャップが対GDPで▲1%~1%の場合、「中長期的なファンダメンタルズ及び望ましい政策に概ね沿っている(broadly in line with medium-term fundamentals and desirable policies)」と評価される。68 ファイナンス 2018 Jun.連 載 ■ 日本経済を考える

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