ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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コラム 経済トレンド48大臣官房総合政策課 片田 竣亮/小山 祥子/田島 夏海我が国の賃金動向と労働生産性本稿では、我が国における近年の賃金動向と、賃金に影響を与える要因のうち、特に労働生産性に着目して考察した。賃金の現状・近年、一人あたり名目賃金上昇率はプラスに転じ、緩やかに伸びている(図表1)。・賃金版フィリップス曲線を、時給上昇率と有効求人倍率を用いて図示すると、近年下方にシフトしながらフラット化している。人手不足が賃金上昇率に及ぼす影響が以前より弱まったことが分かる(図表2)。・特に足元では、人手不足と賃金上昇率の関係の乖離が広がっている。更なる賃金上昇のためには、人手不足以外の要因にも着目する必要があることが示唆される(図表3)。図表1 一人当たり名目賃金95100105110▲6.0▲5.0▲4.0▲3.0▲2.0▲1.00.01.02.03.02005200620072008200920102011201220132014201520162017名目賃金(右軸)前年比(%)(2015=100)(※)名目賃金は、現金給与総額。図表2 賃金版フィリップス曲線y=5.1795x-1.3791R²=0.7051 y=2.263x-2.1835R²=0.4615▲3.0▲2.0▲1.00.01.02.03.04.05.06.07.000.511.52(時給上昇率、%)(有効求人倍率、倍)2000年以降1985~99年(※)時給は、現金給与総額÷総実労働時間(30人以上)の4四半期移動平均。図表3 人手不足と賃金▲6.0▲4.0▲2.00.02.04.06.08.0▲40▲30▲20▲1001020302000200220042006200820102012201420162018(%ポイント)(前年比、%)不足過剰名目賃金(調査産業計、右軸)雇用人員判断DI(全規模・全産業)(※)名目賃金は、現金給与総額。賃金上昇の要因・人手不足以外に賃金上昇率に影響を与える要因については様々なものが指摘されており、例えば物価上昇率や労働生産性上昇率などがある(図表4)。・このうち労働生産性に着目すると、近年その上昇率は先進国全体で鈍化傾向にある。我が国の労働生産性は他国と比較しても低水準で推移しており、今後の賃金上昇のために更なる労働生産性の向上が求められる(図表5)。▲5.0▲4.0▲3.0▲2.0▲1.00.01.02.03.04.05.01991199319951997199920012003200520072009201120132015賃金上昇率(実績)賃金上昇率(推計)(前年比、%)(1)推計値 賃金上昇率(前年比、%)=定数項+α×消費者物価上昇率(前年比、%)+β×完全失業率(%)+γ×労働生産性上昇率(前年比、%)係数t値定数項3.501***3.712 消費者物価上昇率(α)0.414**2.357 完全失業率(β)-1.028***-4.619 労働生産性上昇率(γ)0.468***4.921 決定係数0.817 期間1991年~2016年(2)推計式と推計結果(※1)***、**は、それぞれ1%、5%有意。(※2)賃金上昇率は、現金給与総額。(※3)消費者物価上昇率は、持家の帰属家賃を除く総合。(※4)労働生産性は、就業者1人当たり労働生産性。図表5 G7各国の労働生産性(※1)労働生産性は、購買力平価換算の時間あたり労働生産性。(※2)労働生産性の水準の国際比較の際に用いられる購買力平価には、算定対象となる商品・サービスの選定の問題や同種の商品・サービスでも国によって品質が異なるといった問題があることに留意する必要がある。0204060801970197319761979198219851988199119941997200020032006200920122015カナダフランスドイツイタリア日本英国米国(ドル)図表4 賃金上昇率の推計62 ファイナンス 2018 Jun.連 載 ■ 経済トレンド

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