ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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わが愛すべき80年代映画論(第十一回)文章:かつおブルーレイ ¥1,886+税 DVD ¥1,429+税発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント監督:スティーヴン・スピルバーグ製作総指揮・原案:ジョージ・ルーカス主演:ハリソン・フォード音楽:ジョン・ウィリアムズ『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(原題:Indiana Jones and the Temple of Doom)1984年「一作目最高、二作目駄作、三作目デタラメ」というシリーズ映画の通説・判例を余裕で裏切ってくるシリーズが、確かにある。スター・ウォーズ、ゴッド・ファーザー、ターミネーター、トイ・ストーリー。そしてこのインディ・ジョーンズ・シリーズである。『レイダース/失われたアーク』(1981年)、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)という2大アクション大作に挟まれ*1、ともすれば「暗い」、「狭い」、「アクション少ない」などと文句を言われかねない本作であるが、よく観ればクローズドな世界観の中で冒険アクションの魅力をギュッと凝縮させた完成度の高い作品であり、インディ・シリーズ最高傑作であると言うことができる。映画冒頭、上海ギャングとの大立ち回りのあと、インドに行き着くインディ(ハリソン・フォード)、ショートラウンド(キー・ホイ・クァン)、そして歌手のウィリー(ケイト・キャプショー)。まずもってこの3人のバラバラな個性が際立つ。ワイルドな冒険家に、文句の多い都会の女、小賢しい東洋人のガキという完成されたパッケージ。何が起こっても物語が成立しそうな気がするのである。そして流れ着いたインドの村で謎の救世主扱い。白人が未開の地にいけばそこに「いずれ白い救世主が現れる」とかいう謎の言い伝えがある、という当時よくあった安直展開で、村から奪われた聖なるサンカラストーンと子供たちを奪還しに3人はゾウに乗って悪の宮殿に向かうのである。ここから始まるインド・トラウマ体験がすごい。たどり着いた宮殿で出される料理は、カブトムシの丸焼き、目玉のスープ、サルの脳みそのシャーベット。そこから秘密の洞窟に入れば数千匹の昆虫に囲まれ、サギー教とかいう邪教の儀式を見物すれば、生贄の人間から心臓を取り出しつつ、肉体をマグマの中に放り入れる。今の時代であればトリップアドバイザーに激アップされ、インドへの観光客数は大気圏再突入の角度で急降下だったに違いない。ここまでするか?の過剰な演出。しかし考えてみれば当時である。2~3ヵ月に一度、僕らは川口浩隊長率いる水曜スペシャル取材班が世界各地の秘境に赴き、猛毒ヘビ、底なし沼などの数々のデス・トラップを乗り越えながら、伝説の野人や、裸族、人食いピラニア、幻の魔獣など、人類史上に燦然と輝く新発見*2を連発していたのを観ていた時代である。所詮は作り物の映画の世界。これくらいのインパクトを出さなければ、当時の大人も子供も木鶏のごとき無反応になっていたに違いない。そう考えると、インド政府に抗議をされた(したがってロケ地はスリランカに変更)くらいの過剰演出も、致し方なかったのかもしれない。サギー教の教祖、モラ・ラムにつかまり、一旦は洗脳されるインディ。しかしショートラウンドが松明でインディの胸を焼き、それで目覚めたところからの反撃がたまらない。「レイダースのマーチ」(ジョン・ウィリアムズ)が流れる中で、敵を倒し、子供たちを解放し、トロッコに乗ってジェットコースターばりの追跡チェイス。観客のボルテージは最高点に達する。最後は橋にぶら下がり、絶体絶命になったインディが呪文を唱えるとサンカラストーンがいきなり燃え出す。え? 一瞬引く観客。ラストにおける、それまでのリアリティ冒険路線からいきなりのSF・ファンタジー路線への転化。これは、「聖櫃から出てくる亡霊」、「100年くらい聖杯を守っているおっさん」と並び、インディ・シリーズ全てに共通する“お約束”の転化であるので、受け入れるしかないことは言うまでもない。熱く燃えたサンカラストーンにより橋から手を離したモラ・ラムが人食いワニのいる川に転落。ちょっと最後で引いたものの、冒険活劇の勧善懲悪が完成した瞬間には、やはりガッツポーズを出さざるを得なくなるのである。こうして伝説のサンカラストーンは、一人の考古学者の手により、善良な人たちが待つ村に戻っていくのである。いずれにせよ、「無いはずのものがある」という考古学的な発見は、いつの時代でも我々をワクワクさせてくれるが、それは時と場合によることは、これまた言うまでもない。*1) とりあえず10年くらい前に観た気がする宇宙人が出てくるやつは一回置いておこう…。*2) これら川口浩探検隊によるこれら新発見は、ニューヨークのアメリカ自然史博物館の特設コーナーに陳列されており、今でも多くの観光客や研究者の耳目を引いているという。(諸説あり) ファイナンス 2018 Jun.59わが愛すべき80年代映画論連 載 ■ わが愛すべき80年代映画論

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