ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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そこで本市では、人口減少対策の核となる子育て支援、雇用対策、定住対策等に主眼をおいた具体的な施策を示しています。そのうち雇用対策のひとつとして、産業振興、安定雇用の確保等を基本方針とし、ワインを中心とした農業・商業・観光分野の一体的な振興を図ることとしています。イ ワイン関連産業の悩みところが、高品質なワインぶどうを生産できるという好条件にありながら、ワインブームの浮き沈みに翻弄されてきた経験を持つ生産者は、思い切った面積の拡大に取り組むことができませんでした。また、生産者の高齢化に伴い、離農や規模縮小していく農家が多くなっています。本市の販売農家数は、2015年度現在で1,093戸であり、5年前と比較し17%減(223戸減)、10年前と比較し30%減(458戸減)と急激な離農率を推移しており、耕作放棄地の増加も顕在化しています。このことに起因して、ぶどう生産量の減少が進んでおり、市内、大手ワイナリーが原料仕入れに不安感を持っています。さらに、ワイン用ぶどうの市外への流出は75%にも上り、市内ワイナリーの新規参入や雇用創出の機会を失ってきました。また、原料不足から生産本数を拡大できず、観光資源としての活用が弱くなっています。そのため、かみのやま産ワインの文化・歴史・魅力が県民・市民に知られておらず、市内の旅館、飲食店でかみのやま産ワインを楽しむことができる店が少なくなっています。このような現状は本市への交流人口の増加策の企画を難しくしているという現状があります。(3)ワインを起爆剤にして(自治体の取組の紹介)ア 「かみのやまワインの郷プロジェクト」の立上げこのような悩みはあっても、ここからワインを楽しもう、ワインを売っていこうとするエネルギーが消えることはありません。政府で推し進めている地方創生の動きと相まって、生産(農業者)、醸造(ワイナリー)、消費(観光、商業)、金融、行政といったワインに関係する各組織が一同に会するプラットホーム「かみのやまワインの郷プロジェクト協議会」が2015年12月に産声を上げました。これにより、関係者の士気が高揚しているところです。市農業夢づくり課は同プロジェクト協議会の事務局を担っています。ワインの郷のイメージは、かみのやまの山の裾野に新しく生まれたワイナリーのぶどう畑が広がること、小規模であっても、個性あるワイナリーが複数誕生し、かみのやまに新しい物語が生まれるといった感じであり、観光に訪れる方が増えればありがたいというものです。具体的には、・ぶどう生産者の生産意欲の向上・生産拡大・後継者の確保育成・ワイナリー設立案件の発掘・人材の確保・事業化までの丁寧な支援・かみのやま及びかみのやまワインの魅力を市場に伝え売り込む人材の確保・育成等を通した域内外共に認知度向上など、それぞれの取り組みを深化させる予定です。そして、それらを有機的に連携させ、地域経済活性化の起爆剤となるプロジェクトを目指し、域外からの移住などを含めた新たな担い手の確保や耕作放棄地などの課題の解決及び地産地醸によるワイナリー創業モデルを確立し、働く場の確保と本市への交流人口の拡大までをカバーする「かみのやまワインの郷」を実現することとしています。イ ワイン事業の遂行・かみのやまワイン特区このプロジェクトの活動は多岐にわたります。まずは2016年6月に「かみのやまワイン特区」として認定を受けました。これにより市内にワイナリーを設立するハードルが引き下げられました。・ワインぶどうセミナーぶどう栽培面積拡大や新規就農者誘致などが狙いのワインぶどうセミナーを開催したことにより、協議会52 ファイナンス 2018 Jun.

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