ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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原則」と題する報告書で、税犯罪に対処する戦略、法令、行政及び履行の諸点に関する原則を提示した*5。こうした取組の実効性を高める上でも、透明性向上のための非居住者に係る金融口座情報の自動的情報交換(AEOI)を引き続き着実に進めることが必須である。2017年9月からOECDの基準に則り49の当局間で初めての交換を開始し、2018年9月から、さらに53の当局が交換を開始する予定だ。G20は、税の透明性に関するOECDの取組の進捗ぶりを評価しつつ、各国の実施状況のモニタリングを一層重視する立場から、上記声明で、国際基準の遵守状況の評価方法を強化するためのOECDの提言に期待するとした。(3)税務当局の能力構築支援第3の柱は、途上国を中心とする技術支援だ。グローバルな網のところどころ綻びがあったのでは、魚は捕れない。OECDは、イタリア財務警察と提携した「OECD租税・金融犯罪捜査国際アカデミー」(2014年)に続き、2017年、同様の訓練機関をケニアに開設した。OECDが連接点となる徴税漏れを防ぐための協力も活発で、国連開発計画(UNDP)と共同で行う「国境なき税務調査官」は、派遣要員として予め登録された先進国の税務職員・専門家が、途上国で一定期間、当局の職員に徴税技能を伝授し、実務能力向上と税収改善を図る枠組である。この結果、2012年から2017年までの間に、支援を受けた途上国で合計3億千万米ドルの税収増をもたらした。さらに、上記AEOIの関係でも、2017年11月、OECD加盟国を含む149の国・地域が参加する「税の透明性及び情報交換に関するグローバル・フォーラム」が行動計画を策定し、途上国の実施体制の段階的整備を支援している*6。▪おわりに―OECDの統合運用力OECDの本部はパリにある。国際機関も生身の人間の営みである以上、その議論や活動は現地の世情に大きく影響されるのは当然だ。例えば、ここ数年、月*5) OECD「Fighting Tax Crime:the Ten Global Principles」http://www.oecd.org/tax/crime/ghting-tax-crime-the-ten-global-principles.pdf*6) OECD「Plan of Action for Developing Countries Participation in AEOI」http://www.oecd.org/tax/transparency/plan-of-action-AEOI-and-developing-countries.pdf*7) 2018年OECD閣僚理事会については、筆者「疾走するOECD、デジタル化時代の国際協調:2018年閣僚理事会の概要と意義(前編・後編)」一般財団法人・国際貿易投資研究所(ITI)のホームページ(http://www.iti.or.jp/)例の理事会の冒頭でテロの犠牲者に黙祷を捧げないことのほうがが珍しい。自国で育った若者を狂信的行為に駆り立てる貧困・格差、雇用や移民の問題には、かつてない労力が注がれている。また、明るい話をすれば、昨年のマクロン大統領就任に伴い、英EU離脱決定やトランプ米政権発足で劣勢に立たされていた欧州統合・国際協調が元気を取り戻してきた。本年5月末、フランスは「多国間主義のテコ入れ」をテーマに掲げ、年1度のOECD閣僚理事会の議長を務めた*7。看板こそフランス外交が伝統的要諦とする多国間主義だが、討議の通奏低音は、まさしく不透明で不確実なデジタル経済に国際協調でどう対処するか、という極めて今日的な問いだった。デジタル経済への対応には、国内政策か国際協調か、政府か民間かといった旧来の線引きの意味は薄れ、多様な利害関係の動的均衡を達成するための幅広い関係者の対話・関与が必要である。OECDは、2017年のG7首脳宣言の呼びかけに応じ、国際税制に限られず、市民社会の利害関係者が広く参加し、円滑な情報流通とデジタル安全のバランスの最適点を探求し、国際ルール・基準に結実させていく場として「繁栄のためのデジタル・セキュリティーに関するグローバル・フォーラム」を創設した。ひるがえって、租税政策は古今東西、政治そのものであり、民意が最も敏感に反応する政策領域であればこそ、各国政府や産業の動向や他の政策論と無縁であってよいはずはない。この観点からも、参加が開放的で任意性が比較的高く、マクロ経済から、教育、福祉、環境に至るまで幅広い公共政策分野を横断的に統合運用する強みを持つOECDが、デジタル経済の見えにくい本質をしっかり視て、引き続き国際税制を牽引していく責務は大きい。(本稿で述べられた意見や見解は全て筆者個人によるものであり、筆者が所属する組織の立場を一切示すものではない。) ファイナンス 2018 Jun.37

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