ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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勧告の実施が電子経済に与える影響などを観測し、課税の在り方を検討する。3月のG20会議は、その中間報告書を歓迎した*2。報告書のポイントは3点だ。第1は、デジタル経済の特徴として、ア.国境を越え物理的拠点を伴わないビジネス、イ.知的財産など無形資産への大きな依存、ウ.データ及びユーザー参加の重要性、を指摘した点だ。ただし、BEPSメンバーの間では、これらの特徴がデジタル経済に特有のもので、従来の国際課税原則の改正を迫るまでの影響が有るのかどうかについて、引き続き見解の一致には至っていない。けれども、その上で、2点について重要な進展を見た。そのうちのひとつが、この中間報告書のポイントの第2点で、今後、デジタル化に伴う課税上の課題に対応すべく、将来的に共通の国際的ルールを設けること、そして、必要に応じ、2つの重要な国際課税原則を見直していくことに合意した。ア.各国の非居住者たる企業に対する課税を決定するネクサス原則(国内に事務所や工場など恒久的施設Permanent Establishment(PE)を持たない企業には法人税を課税できないとするPE原則)と、イ.課税対象利得の算定及び配分を決める原則(独立企業間原則/アームズ・レングス原則)である。第3のポイントは、国際ルールが最終決定されるまでの間、各国がデジタル課税の暫定的措置(interim measure)をとることを消極的ながらも許容したことだ。背景には、納税者・有権者を前に、最終決定まで税の「取りっぱぐれ」を座視するわけにはいかない、という複数国の切迫感がある。「暫定」とはいうものの、最終決定の時期が見通せない以上、事実上、恒久的に適用され得ることに留意が必要だ。中間報告書は、暫定措置に伴う負の効果を緩和するための6つの「考慮すべき事項(considerations)」を盛り込んだ。すなわち、ア.国際的義務を遵守すること(既存の租税条約のPE原則を変更しない限り、条約の対象税目である所得への租税以外の税目、すなわち間接税にする必要がある。また、WTO協定の内国民待遇及び最恵国待遇*2) 中間報告書は、OECD「Tax Challenges Arising from Digitalisation:Interim Report 2018」https://read.oecd-ilibrary.org/taxation/tax-challenges-arising-from-digitalisation-interim-report_9789264293083-en#page1*3) EU委員会「Fair Taxation of the Digital Economy」https://ec.europa.eu/taxation_customs/business/company-tax/fair-taxation-digital-economy_en*4) OECD「Effective Inter-Agency Co-Operation in Fighting Tax Crimes and Other Financial Crimes-Third Edition」http://www.oecd.org/tax/crime/effective-inter-agency-co-operation-in-ghting-tax-crimes-and-other-nancial-crimes.htmの義務を守り、外国法人だけでなく内国法人も差別せず対象とすべし。)、イ.暫定である以上、措置が一時的であること、ウ.対象を限定すること(典型的にはインターネット広告収入などに限定)、エ.過重課税の最小化(二重課税のリスクと進出先国での徴税という暫定措置の目的を両立させるために、低い固定税率や損金算入を容認するなど適切な税率や範囲とすべし。)、オ.起業やイノベーションに対する悪影響の回避、そして、カ.行政費用やコンプライアンス費用の最小化、である。各国は、これらを考慮する限り暫定的措置をとれるのだ。G20会議の翌日、早速、欧州委員会は、中長期的なEU共通の法人課税ルールを提案した*3。IT企業の年間収入が7百万ユーロ超、ユーザー数が10万人超及び電子サービスに係る契約締結数が年間3千件超のいずれかの条件を満たせば、国内に「デジタル拠点」があると認定できるとする内容だ。また、短期的措置として、課税対象を利益ではなく売上(収入)として、全世界での総収入が7億5千万ユーロ超及びEU内での電子経済の売上高が5千万ユーロ超という条件をともに満たす企業に対する3%の固定税率での課税を提案した。50億ユーロの税収を見込む。これに間髪入れず、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン及び英国が共同声明でEU提案を歓迎した。もっとも、アイルランドやルクセンブルグなどIT企業優遇税制を敷く国は反対しており、EU加盟国の全会一致は容易ではない。TFDEは、日本がG20会議を主催する2019年に作業の進捗状況を、2020年に最終報告とする予定だ。(2)違法取引の取締り強化OECDの取組の第2の柱は、デジタル化により益々地下に潜行し巧妙化する、脱税やマネロン等の違法な資金フローへの対策だ。47の国及び機関が参加する「OECD税犯罪等に関するタスクフォース」は、いたちごっこの現状打開に向け、犯罪の防止、発見及び捜査に関する各国の政府横断的な取組事例や提言をまとめた*4。また、「税犯罪との闘い:グローバルな10の36 ファイナンス 2018 Jun.

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