ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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計画をこの夏までに発表する旨、発言した。公表されたコミュニケにおいては、「強固、持続可能、均衡的、包摂的、かつ雇用が豊富な成長を達成するため、引き続き全ての政策手段を用いる」、「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることを認識する」等、我が国の主張に沿った記述が引き続き盛り込まれた。また、IMFの業務面では、低所得国における債務の脆弱性の増大を踏まえ、債務者・債権者双方による債務透明性の向上を図る視点から、世界銀行グループと協働して作業計画を策定することが求められた。3世銀・IMF合同開発委員会今回の開発委員会(注)においては、世銀グループ(国際復興開発銀行(IBRD:International Bank for Reconstruction and Development)と国際金融公社(IFC:International Finance Corporation))の資本基盤強化のための一般増資と投票権シェアの調整のための選択増資や、世銀グループのForward Lookの進捗状況など開発支援をめぐる様々な政策課題について議論が行われた。(注) 開発をめぐる諸問題について世界銀行・IMFに勧告及び報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。IBRDとIFCの増資に関しては、世銀グループが、大規模な資金動員を行いグローバルな開発課題に対応していくことが必要との観点から、業務効率化、収入改善、財務の持続可能性のための方策の導入等、根源的な組織的・財務的改革の実施と合わせて、IBRDの75億ドル、IFCの55億ドル、合計130億ドルの一般・選択増資による払込資本の増資が合意された。投票権見直しについても合意が得られ、新興国・途上国が世界経済に占めるウェイトの増加を反映し全体として投票権シェアが上昇する中、日本はIBRDとIFC双方で投票権シェア第2位の地位を確保した。政策課題に関する議論においては、日本は、質の高いインフラ投資の重要性を改めて強調するとともに、インフラ投資における開放性、透明性、経済性、財政の健全性、技術・ノウハウの現地への移転の確保の必要性を指摘した。また、国際的スタンダードに基づくインフラ投資の推進を通じて、インド・太平洋地域の自由で開かれた経済発展へ貢献していく旨を表明した。国際保健に関しては、4月20日に世銀、WHOと共にUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)財務大臣会合が開催されたことを歓迎するとともに、各国財務大臣と保健大臣の連携、UHCの財源確保、健全で持続可能な保健財政システムの確立への期待を表明した。防災についても、世銀支援における防災の主流化が進展していることを歓迎するとともに、日本=世銀防災主流化プログラムの第2フェーズの開始を表明した。環境に関しては、地球環境ファシリティ(GEF)第7次増資の成功裏の妥結を慫慂した。債務持続性については、一部途上国における債務破綻のリスクへ警鐘を鳴らすとともに、借り手側・貸し手側双方における債務管理能力の強化を通じ、債務の透明性の向上や債務持続性の確保に向けた一層の努力の必要性、及び世銀による積極的な関与への期待を表明した。4出張者小話本稿冒頭で紹介したように、今回のG20では、保護主義的な内向き政策に関する議論が一つの焦点となっていた。出張者の目から見ると興味深かったのは、保護主義を含む世界経済のリスクについて議論した、ワーキングディナーで振る舞われた食事の内容であった。前菜はスペインに起源を持つエンパナーダ、主菜は(議長国アルゼンチンから輸入したと思われる)ステーキ、そしてアルゼンチン産のマルベックの赤ワインだった。マルベックはフランス南西部を起源とする葡萄品種であるが、現在はアルゼンチンやチリなど南米における生産も非常に多く、質も高い。これも、国境を越えた経済統合や自由貿易の賜物である。外交とは、小さな一歩の積み重ねである。大げさに聞こえるかもしれないが、バイ会談やマルチの会合で議論を積み重ねるだけでは届かない、フィジカルな体験を含めたあらゆる手段を積み重ねて初めて達成できる境地もある。振る舞われたステーキとワインを味わいながら、「保護主義的な内向き政策は世界経済のリスクである」と各国から相次いで発言される一幕は、出張者の目から見ると象徴的に映った。(以上) ファイナンス 2018 Jun.29

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