ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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主計局調査課長 関口 祐司/主計局調査課調査第1係長 宇佐美 紘一財政制度等審議会・財政制度分科会(以下、審議会)は、2018年1月から9回にわたって審議を行い、「新しい財政健全化計画等に関する建議」(以下、建議)をとりまとめ、5月23日に麻生財務大臣に手交した。建議は、政府が本年の「経済財政運営と改革の基本方針」(以下、骨太方針)において示すこととしている新たな財政健全化計画に向けた基本的考え方や、社会保障、地方財政、文教・科学技術をはじめとする6つの歳出分野において取り組むべき課題等を示したものである。詳しい内容は建議本文をご覧いただくこととし、ここでは建議の概要、特に財政総論の中でポイントとなる点をご紹介したい。1早期の財政健全化の必要性政府は昨年、2019年10月に予定されている消費税率の10%への引上げによる増収分の使い道を見直し、その概ね半分を、教育負担の軽減・子育て層支援・介護人材の確保等の施策に充てることを決定した。これに伴い、2020年度のプライマリーバランス(以下、PB)*1黒字化目標の達成は困難となったものの、PBの黒字化を目指すという目標自体は堅持し、本年の骨太方針において、PB黒字化の達成時期、その裏付けとなる具体的かつ実効性の高い計画を示すこととした。これに対して建議では、これ以上の財政健全化の遅れは許されない、「後がない」という危機感を持ってPB黒字を今度こそ確実かつ安定的に実現する必要があるとの考え方が示されている。早期の財政健全化は、国民の将来不安を和らげ、デ*1) プライマリーバランス(基礎的財政収支)とは、税収・税外収入と、国債費(国債の元本返済や利子の支払いに充てられる費用)を除く歳出との収支のことを表す財政指標。プライマリーバランスが均衡していれば、その時点で必要とされる政策的経費を、その時点の税収等で賄えていることとなるが、債務残高の実額は利払費の分だけ増加する。フレ脱却・持続的な経済成長を実現するために不可欠の前提である。国際通貨基金(IMF)も、審議会が実施した海外調査の際、我が国の財政健全化の道筋が不透明であることなどが、社会保障制度の持続可能性に対する不安を増大させ、過剰貯蓄、消費の低迷などにつながっているとの見解を示している。我が国の経済・財政を取り巻く状況に目を移すと、いわゆる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となり始める2022年が迫っている。75歳以上の一人当たり医療費・介護費は、65~74歳に比べても大幅に高く、医療費・介護費の増加が見込まれる。2025年には「団塊の世代」が全て後期高齢者となる。また、金利上昇に伴う国債の利払費の増加リスク、大規模な自然災害や経済危機の可能性などがあり、こうしたリスクが顕在化した場合の政策対応の余力を回復しておくことも必要である。以上を踏まえ、建議では、2022年度よりも前まで財政制度等審議会「新しい財政健全化計画等に 関する建議」について左から、冨田俊基委員、小林毅委員、榊原定征会長、麻生太郎財務大臣、田近栄治会長代理、土居丈朗委員、中空麻奈委員26 ファイナンス 2018 Jun.

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