ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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8終わりにこのように、「国際収支統計」の推移を見ると、我が国経済の変容が浮き彫りとなっていることに気付かされる。国内市場の縮小を見据えた海外進出という本邦企業の戦略や、観光振興を通じた訪日外客数の増加、M&Aなどの海外投資の拡大といった様々な動きが見て取れる。「国際収支統計」が日本の経済構造の投影であることは、その解釈にあたって全体を捉える視点が重要であることも意味している。例えば、本稿においては、貿易黒字の縮小が、必ずしも輸出で外貨を獲得してきた製造業等の凋落を示しているとは限らず、むしろ本邦企業が海外展開を進めてグローバルに競争力を発揮していることが、別の視点からは「貿易」から「投資」への戦略的シフトと捉えられ、マクロデータとして国際収支に投影されていることを示した。また、「7国際収支と為替」で示したように、国際収支のマクロデータと実際の為替取引の関係は、「経常黒字だから円買い」といった単純なものではないことにも留意が必要である。本稿では貿易収支および対外直接投資に起因する為替取引について考察したが、本稿で取り上げなかった証券投資に絡む為替取引を含めて、今後の研究課題としたい。 ファイナンス 2018 Jun.25

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