ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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る実際の為替取引はネットでドル買い・円売りであることを示唆する。貿易収支が黒字だと外貨=ドルの黒字、すなわちネットでドル売り・円買いと思われがちだが、図16の通貨別収支はこうした見方が必ずしも適切でないことを示している。つまり、貿易量でウェイト付けした各種実効レートは日本の貿易に絡む為替取引の実態を適切に反映しているとは言い難い。ロ)投資国際収支の構造変化を踏まえれば、国際収支の為替に与える影響を考える際に、所得収支やこれを支える投資についての分析も重要である。例えば、ここ数年、わが国の対外直接投資が急激に拡大していることから、これに伴う円売りが円に対する下落圧力となっているのではないかとの指摘がある。*4) 海外子会社等が稼得した利益のうち、本邦投資家に配当されずに内部留保されたものは、その持分に応じて一旦投資家に配分された後、直ちに再投資されたものとして、経常収支の「再投資収益」と金融収支の「直接投資/収益の再投資」に同額が計上される。確かに、ここ数年の対外直接投資の拡大は目覚ましいが、直接投資の増加とともに、直接投資収益として配当金や再投資収益*4も増加しており、両者を併せて見る必要がある。再投資収益は、統計作成のルール上、収益と同額の再投資を計上するものであり、実際の資金移動を伴わないことから、為替取引は全く無い。一方、配当金はほぼ全額が外貨の受取と想定される。収益の再投資以外の直接投資については、為替に影響を与えるもの(外貨をアウトライトで調達して行うもの)と、為替に影響を与えないもの(既に保有している外貨を融通して行うものや、為替リスクをヘッジするものなど)が混在している。このため、直接投資の為替の影響は投資額ほどではない可能性が高い。直接投資の為替に影響する金額を50%と仮定して試算してみると、直接投資とその収益である直接投資収益の為替への影響は継続的にほぼゼロである(図17)。(図16)日本の貿易収支:通貨別貿易収支の推移-4-3-2-10123200020022004200620082010201220142016貿易収支ドル建円建ユーロ建その他通貨建(兆円)(出所)財務省「国際収支統計」「貿易統計」(図17)直接投資関連資金の基礎的需給0000-1-1-1-1-2-2-3-20-1-2-2-2-4-5-5-5-600(0)0111122320122245556-25-20-15-10-50510151996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017(兆円)直接投資収益配当金対外直接投資(為替取引発生分)対外直接投資(為替取引未発生分)再投資収益(為替取引未発生分)再投資収益円の需給の推計額(注)直接投資は再投資収益は為替取引が発生しないものとして0%とし、その他について、0.5を乗じている。(出所)財務省「国際収支統計」再投資収益配当金収益の再投資円買円売0.2(6.4-6.2)24 ファイナンス 2018 Jun.

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