ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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ハ)為替と輸出数量との相関ここ数年、為替と輸出数量の相関が崩れており、為替変動は輸出量に殆ど影響を与えていないことは、より長い期間の変化を見ても、また、主要な輸出相手国である米国との関係でも明らかである(図7,8)。ここ数年、円安局面でも輸出量が伸びない背景には、本邦企業の生産拠点の海外移転が進む中、現地調達率が上昇していること、現地価格を簡単に変更できる市場環境にないこと、競争力を失った製品は生産自体が減少していること、などが挙げられる。4「投資」に現れる特徴 第一次所得収支は、黒字構造がより安定化し、貿易収支の変動を吸収できる規模が定着第一次所得収支の黒字は、2014年に記録した過去最大の貿易赤字(約10兆円)の2倍の規模に達している。これは、貿易収支の変動を吸収し、貿易収支が赤字転化する局面でも経常黒字を維持することが可能な規模と言える。従来は、第一次所得収支の大半を証券投資収益が占めていたが、最近では、M&Aをはじめ活発な対外直接投資を背景に、直接投資収益の割合が高くなってきており、その海外資産からの収益が日本に還流することで我が国経常収支の収入源の様相が変わってきているように見える(図9)。このような貿易収支の縮小と、所得収支、特に直接投資収益の拡大は、必ずしも独立の事象ではなく、一部産業の構造変化も反映していると考えられる。例えば、製造業では、海外展開の進展に伴い、これまで収益を支えてきた「貿易による稼ぎ」から「投資による稼ぎ」へシフトし、収益が反映される項目が「貿易収支」から「所得収支」へ振り替わっていることが見て取れる(図10)。(図10)製造業の収益構造の変化024681012200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017(兆円)第一次所得収支(直接投資収益・製造業)貿易による収益(出所)財務省「国際収支統計」、「法人企業統計」(図9)直接投資・証券投資収益の推移(ネット)-505101520251996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017(出所)財務省「国際収支統計」(兆円)配当金等再投資収益利子所得配当金(証券投資収益)債券利子(証券投資収益)直接投資収益証券投資収益(図7)輸出数量と実質実効為替レート対全世界(実質実効為替レート)(図8)輸出数量と実質実効為替レート対米国(ドル/円レート)円安局面でも輸出数量は必ずしも増えない6070809010011012013014015016060708090100110120130140150160輸出数量指数(2010=100)(出所)内閣府、日本銀行(ドル/円)ドル/円40506070809010011012013014060708090100110120130140150160輸出数量指数(2010=100)円安円安輸出数量指数(対世界)輸出数量指数(対米国)円高円高実質実効為替レート(2010=100)(出所)内閣府、日本銀行2016201720152014201320122011201020092008200720062005200420032002200120001999199820162017201520142013201220112010200920082007200620052004200320022001200019991998 ファイナンス 2018 Jun.21

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