ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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国際局為替市場課国際収支専門官 泉山 美幸/同課国際収支第一係長 髙橋 宏信1はじめに海外とのモノやサービス、投資の取引状況を示す経常収支を見れば、一国の対外経済取引状況が分かる。近年は、本邦企業の活発な海外投資や訪日外客数の増加により、長い間日本の経常黒字の牽引役であった「モノの輸出」に代わり、「投資や観光・ロイヤリティ収入」が経常黒字を押し上げている姿が浮かび上がる。我が国の経常収支統計から日本経済の構造の変化を読み解いてみると、「貿易立国」から「投資立国」への転換が鮮明になってきていると言えよう。2経常収支の構造変化経常収支の推移について、過去半世紀の変化を概観すると、経常黒字を支える項目が貿易収支から第一次所得収支に移行するなど、日本経済の構造的な変化を映じた動きが見てとれる。最近の貿易構造は、鉱物性燃料を中心に輸入数量が減少しにくい一方、製造業の生産拠点の海外移転が進んだことを背景に輸出数量も伸びにくく、黒字拡大が抑制される傾向にある。他方、長年の経常黒字を背景とするこれまでの対外投資により、居住者が保有する海外資産や外国証券の残高が増加した結果として、海外との配当や利子の受払を示す「第一次所得収支」の黒字が増加し、今や貿易収支の変動を吸収できる規模の黒字を安定的にもたらす構造が定着している。また、サービス収支は赤字幅の縮小が継続しており、黒字転換も視野に入ってきた。以下、これらの変化を細かく見ていきたい。我が国の経常収支の構造変化:「貿易立国」から「投資立国」へ経常収支の推移40100160220280340400-20-1001020304019651966196719681969197019711972197319741975197619771978197919801981198219831984198519861987198819891990199119921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017第一次所得収支貿易収支サービス収支第二次所得収支貿易外収支経常収支ドル円リーマンショック(08年9月15日)【104.66円】アジア通貨危機(97年7月)【118.55円】ニクソンショック(71年8月15日)プラザ合意(85年9月22日)【231.90円】日銀量的・質的金融緩和(13年4月4日)大震災(11年3月)(兆円)黒字の主役が貿易収支から第1次所得収支へエネルギー価格高騰から鉱物性燃料輸入額増急激に円高が進む中で貿易拡大旅行、知財等使用料拡大でサービス収支改善(ドル円)(注)1984年以前の計数は、当時ドル建てで公表されていた計数をIFSのレートにより円換算したもの。1995年以前は旧統計に準拠。第二次所得収支は、海外送金(海外支店社員への給与支払や労働者送金)及び援助など無償で相手方に提供する取引に係る資金移動。ドル円レート:月末レート年平均(出所)財務省「国際収支統計」、「日本銀行」 ファイナンス 2018 Jun.19

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