ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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5.今後に向けてこのように、政投銀の特定投資業務は、日本の経済成長及び金融市場の発展において、一定の役割を果たしてきた。しかし、依然として、日本におけるリスクマネー供給は、十分に行われているとは言い難い状況にある。こうした状況下で、政投銀の特定投資業務には、今後の日本におけるリスクマネー供給の拡大及び金融市場の更なる高度化に向けて、リスクマネー供給主体としての役割と同時に、民間金融機関や民間事業者によるリスクマネー供給をより一層促進し、日本のリスクマネー市場全体を活性化させる触媒・呼び水としての役割を果たしていくことが期待される。〈参考文献〉●田部真史(2010)「政策金融について(総論)」『ファイナンス』2010年7月号● 官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会(2017)「官民ファンドの運営に係るガイドラインによる検証報告(第8回)(案)」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kanmin_fund/dai9/siryou1.pdf● 成長資金の供給促進に関する検討会(2014)「成長資金の供給促進に関する検討会 中間とりまとめ」http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/nance/pdf/interimreport.pdf● 中澤吉博(2015)「株式会社日本政策投資銀行(DBJ)の見直しについて―完全民営化の方針を維持しつつ、危機対応・成長資金の供給にDBJの投融資機能を活用―」『時の法令』2015年9月15日号(第1985号)● 永山玲奈(2010)「株式会社日本政策投資銀行について―完全民営化を巡る議論と動き―」『ファイナンス』2010年8月号世界最小のローバーを武器に宇宙資源の開発を目指す株式会社i space ファウンダー & CEO 袴田武史宇宙開発は、国主導で育てた技術を利用し、民間の需要を産業として取り入れる段階に移行しつつあります。私はこれをチャンスと捉えています。企業のビジョンは「Expand our planet. Expand our future.」。この言葉には「地球の生活圏を宇宙に広げる」との意味を込めました。地球上でも、宇宙でも、資源のあるところに人が集まり、街ができて経済が発展します。そこで、宇宙での資源開発の実現を、10年、20年先の中長期的な目標としました。まず、月面への輸送サービスを事業として展開したいと考えています。現在、世界各国が月面に基地を作るミッションに取り組んでおり、NASAやJAXAなど、国の機関からの発注が想定されます。さらに、月面でのインフラ構築に後押しされ、民間企業の物資輸送ニーズが期待できます。現時点でのプランでは、静止衛星の打ち上げロケットに、ランダー(着陸船)を相乗りさせ、宇宙で切り離されたところから自力で月を目指します。そして、月面に着陸した後は、ランダーに搭載されたローバー(探査車)などが月面に降りて探査を行います。強みは小型軽量化です。費用の約半分を占める打上げ費については、小型軽量化でコストを大幅に削減できます。弊社のローバーの重量は4キロで世界最軽量です。また、大型のミッションでは輸送回数や着陸する場所も限られますが、小型のミッションにすれば、顧客のニーズに合わせて、望む時期・場所に輸送ができるようになります。私は、宇宙産業を発達させるためには、「資本と経営」が大事だと考えています。宇宙開発には最先端の技術が使われていると思いがちですが、実際には、宇宙に出てしまうと修理ができないので、信頼性が確立された古い技術が利用されます。現在の宇宙産業を変えるためには、新しい技術の開発よりも、実はプロジェクトをビジネスとして成立させ、継続性を持たせるための資金の確保と経営力こそ、重要なのです。今回展開する月面輸送ビジネスの構築には、2回分のミッションを実現するための費用として、100億円の資金が必要だと判断しました。1回目のミッションで月面に着陸するのは現実的に困難なので、まずは月の周回に入ることを目指し、2回目に、月面着陸を目指します。私は、自社の成功のみならず、宇宙産業をしっかりと構築し、ライバル会社も事業が可能な環境を作りたいと考えています。将来、宇宙資源開発の段階になると、宇宙に関する技術だけでなく、プラントを作ったり、燃料を保管したり、既に地球上で活用されている技術が必要となります。これらの技術は国内企業に多く蓄積されていますが、こうした企業にも参加してもらい、宇宙ビジネスを産業に育てていくことが必要です。この点を様々な企業に訴え、国内12社から出資を受けました。政投銀もその一つです。政投銀から出資を受けることで、産業としての構築に要する長期の時間軸でのサポートが得られるというメリットがあります。さらに、政投銀は日本の産業界と強いパイプを持っているため、様々な技術を持った企業との橋渡しの役割を担ってくれるという期待もあります。今後は、2020年をめどに月面着陸に挑戦し、輸送ビジネスをスタートさせ、2025年をめどに月面で資源調査を行い、2030年には燃料供給のめどを立てたいと考えています。投資事例の紹介4筆者とランダーの模型。手前にはローバーが見える。18 ファイナンス 2018 Jun.政策金融の意義と取組 2日本政策投資銀行の特定投資業務の取組について ~リスクマネー供給の強化に向けて~特集

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