ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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ニン・エクイティ市場育成や、大型案件においてエクイティを供給する民間ファンドの組成に向けた環境整備をより一層促進するための、新たな体制の構築が必要となった。こうした状況を受け、2015年に株式会社日本政策投資銀行法が改正され、地域経済の発展や産業競争力の強化に資する事業活動に対する、政投銀の成長資金供給の業務が、「特定投資業務」として定められた。こうして、日本におけるリスクマネーの担い手・市場がまだ未成熟であるとの問題意識の下、リスクマネーの供給を時限的・集中的に強化する新たな投融資の仕組みとして、2015年5月に「特定投資業務」が開始された*11。3.特定投資業務の仕組み特定投資業務の財源は、政投銀の自己資金1,650億円と、国の産業投資出資による1,650億円の計3,300億円(2018年3月末時点)*12であり、前身の競争力強化ファンドと比べて、より強固な資本構成となっている。特定投資業務の資金供給の手法については、エクイティやメザニン等のリスクマネーに限定することとされている。特定投資業務の実施に際しては、地域経済の活性化や企業の競争力強化に寄与し、かつ、民間金融機関による資金供給の促進にも寄与するという政策目的を果たすことが求められている。このため、資金供給の対象や条件等について財務大臣が特定投資指針において定めるとともに、政投銀には、(1)同指針に即した具体的な対応を特定投資業務規程において定め、財務大臣の認可を受けること、(2)毎事業年度の事業計画に同業務の実施方針を記載し、事業報告書に当該実施方針に基づく同業務の実施状況を記載することが義務付けられている。投融資案件の組成とその後のモニタリングにあたっては、各事業分野を担当する部署が、現場の実情を把握するために、日頃から情報収集を行っている*13。さらに、投資先のバリューアップを図るため、各種戦略の策定支援等の経営支援も行っている。*11) 特定投資業務の投融資決定期限は2020年度末までの約5年間とされた。*12) 平成30年度財政投融資計画では、政投銀の自己資金1,290億円と、国の産業投資出資による1,290億円の計2,580億円を更に措置する計画となっている。*13) 「審査は足を使って(現場に出向いて)行う」ことが大切とのこと。*14) 2015年11月~2018年3月までに、計15回開催。具体的な意見交換相手としては、全国銀行協会、全国地方銀行協会、第二地方銀行協会などがある。*15) 業務全体において、他の事業者との適正な競争関係の確保に関する状況等を評価する、取締役会の諮問機関。*16) 特定投資業務の創設に伴い、外部の有識者による取締役会の諮問機関として新設された。特定投資業務の全案件において、(1)政策目的に沿って行われているか、(2)民業の補完・奨励及び適正な競争関係が確保されているか等に関して、客観的な評価・監視を実施している。*17) 地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人(観光庁による定義)。また、政投銀では、特定投資業務の実施にあたっても、民間金融機関との協調に積極的に努めている。民間金融機関等との定期的な意見交換会を実施しているほか*14、取締役会の諮問機関である「アドバイザリー・ボード*15」及び「特定投資モニタリング・ボード*16」において、上記意見交換会の内容を踏まえた議論を行っている。政投銀では、こうした意見交換会や諮問機関での議論・意見などを、適切に事業計画や事業報告書へ反映させることで、適切な業務・組織運営に努めている。4.取組の実績2018年3月末までの3年間で、特定投資業務による投融資として、62件、2,591億円が決定され、そのうち1,989億円が実行されている(図表5)。また、特定投資業務によって誘発された民間からの資金供給額(呼び水効果)は、2018年3月末で9,220億円となっている。以下、これまでに実施した特定投資業務案件について紹介する。(1)地域経済の活性化地域におけるインバウンド(訪日外国人旅行)観光需要開拓や地域有力企業の海外展開を始めとする様々な取組を支援している。ア.観光政投銀は、地域経済の活性化に資するインバウンド観光の発展・拡大を支援するため、「日本版DMO(Destination Management Organization)*17」の必要性について、レポートでの提言等を通じて発信してき図表5 特定投資業務の投融資実績の推移類 型年 度地 域地域金融機関との共同ファンド競争力強化累 計金 額件 数金 額件 数金 額件 数金 額件 数201510億円4件100億円6件648億円8件759億円18件201651億円7件6億円1件851億円7件908億円15件201781億円9件62億円7件780億円13件924億円29件累計142億円20件169億円14件2,280億円28件2,591億円62件(注1)上表は、案件類型をテーマ毎に便宜的に分類したものであり、地域案件は、原則、事業主体の本社所在地が東京都以外の場合(但し、事業主体が海外事業子会社等の場合は除く)としている。(注2)金額は単位未満四捨五入。 ファイナンス 2018 Jun.13政策金融の意義と取組 2日本政策投資銀行の特定投資業務の取組について ~リスクマネー供給の強化に向けて~特集

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