ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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資金の借り手の立場から考えてみる。シニアローンは、新たな株式の発行を伴わないため、経営権の希薄化を防ぐことができるメリットがある反面、会計上負債として計上されるため、自己資本比率が低下するデメリットがある。他方、エクイティは、経営権の希薄化を招くが、会計上自己資本として計上され、自己資本比率を向上させる。両者の中間に位置するメザニンは、案件に応じた資金供給スキームを借り手のニーズを勘案して構築することが可能*7である。このように、借り手の資金調達ニーズを満たすためには、多様な資金供給手法が市場に存在している必要がある。日本の金融仲介は預金取扱機関である銀行が中心となっており、プライベート・エクイティ・ファンド*8等の「その他の金融機関」の資産シェアは欧米よりも小さい(図表3)。しかし、預金取扱機関は、出資などのリスクの高い資金供給に一定の制約が課されるため、銀行がリスクマネー供給を一手に担うということは難しく、資産に占めるエクイティ投資の割合も低いのが現状である(図表4)。また、メザニン・ファイナンスの活用方法や商品設計のノウハウについても、まだ十分に普及しておらず、民間におけるメザニン・ファイナンスの担い手は限られている。こうした課題がある中、政投銀の特定投資業務は、民間金融機関等と協働しながら、メザニン・ファイナンス等の手法による資金(リスクマネー)を供給することで、リスクマネー供給主体の増加及びリスクマネー市場の発展をもたらすことが期待されている。*7) 例えば、メザニン・ファイナンスの一種である優先株は、(普通株と比して配当が優先されるが、)議決権がないことが多いため、経営権の希薄化無しに、自己資本比率を高めることが可能となる。*8) 未公開株式を取得し、株式公開や第三者に売却をすることで、利益を獲得することを目的としたファンド。*9) 「成長資金の供給促進に関する検討会」の中間とりまとめ(2014年11月14日)において、「成長資金は、企業のライフサイクルの各段階における企業価値の向上や維持に資する取組を支え、その供給促進は、企業の成長に向けたリスクテイクを促し、経済成長に資する」とされ、それと同時に、「政府系金融機関が、市場育成のための当面の措置として、ファンド等を活用して、大胆な事業の選択と集中を進める事業再編やノンコア事業の切り出しによる休眠技術の活用などの成長に資する企業の取組に対する支援を強化することが重要」とされた。*10) 2015年6月に「特定投資業務」が開始されたことに伴い、以降、新規の投融資は行わず、既存の投融資案件の回収業務等に努めている。2.特定投資業務の創設の経緯2014年に開催された「成長資金の供給促進に関する検討会」では、リスクマネー供給の拡大の重要性と、そのための政府系金融機関の役割の強化への期待が指摘された*9。日本におけるリスクマネー供給の先駆けとして、投融資一体型のビジネスモデルを展開してきた政投銀でも、リスクマネー供給をさらに加速させ、企業による新たな価値の創造や企業価値向上を進める取組を支援するため、2013年3月に「競争力強化ファンド*10」を設立した。その際、政投銀の自己資金500億円とともに、国による1,000億円の貸付(産業投資貸付)が財源として措置された。その後、競争力強化ファンドによる投融資として、12件、1,279億円が実行され、誘発された民間からの資金供給額(呼び水効果)は5,612億円に達した。このように、競争力強化ファンドは民間によるリスクマネー供給の促進に寄与したが、その取組の継続にあたっては、(1)想定していた資金規模の上限1,500億円に既に達しつつあり、追加的な財源の手当てが必要であること、(2)政府からの貸付だけでは、資金供給拡大に伴う資本が不足し、財務の健全性への影響が避けられないこと、という二つの課題に直面していた。こうした中で、競争力強化ファンドを通じて行ってきた、メザ図表4  日本の金融仲介機関のエクイティ投資の割合の推移0%5%10%15%20%25%30%35%40%預金取扱機関年金・保険基金その他の金融仲介機関(年度)198019851990199520002005201020152016(出所)日本銀行「資金循環統計」(注)「エクイティ投資の割合」は、各金融仲介機関の株式等への投資額を金融資産総額で割ったもの。図表3  金融仲介機関の資産シェア(日米欧比較)46%21%57%13%32%19%41%47%25%0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%ユーロエリア(76.2兆ユーロ)米国(87.9兆ドル)日本(3381兆円)預金取扱機関保険・年金基金その他の金融機関(出所)日本銀行「資金循環の日米欧比較」(注)2017年3月時点。12 ファイナンス 2018 Jun.

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