ファイナンス 2018年6月号 Vol.54 No.3
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本稿では、経済成長を支えるリスクマネーの供給を強化するために、2015年5月に株式会社日本政策投資銀行*2(以下「政投銀」という)に創設された、特定投資業務について紹介する*3。民間によるリスクマネー供給が十分ではないと指摘される中、政投銀の特定投資業務では、国の出資も活用し、企業の競争力強化や地域活性化に資する分野における深いリスクを取っての資金供給を行っている(図表1)。1.リスクマネー供給の意義資金を供給する者にとって、事業が成功するか否かは、資金供給の実行を判断する上で重要な要因となる。今後の成長を期待できるが、先行きの見通しが困難であり、資金回収に相応のリスクがある事業に対する資金供給には、リスクの特定・分析及びそれに見合ったリターンの見極めを行う高度な経験・ノウハウが必要とされる。資金供給者は、こうした事業そのものに由来するリスク・リターンだけでなく、資金の供給手法の特色に応じたリスク・リターンを考慮した上で、最終的な資金供給の可否及びその供給手法を判断*1) 本稿の意見にわたる記述は、筆者の個人的な見解である。また、作成にあたっては、日本政策投資銀行の皆様から貴重なコメントを頂いたことに感謝申し上げる。*2) 出資と融資を一体的に行う手法や、その他の高度な金融手法を用いた業務を営むことにより、長期の事業資金を必要とする者に対する資金供給の円滑化や、金融機能の高度化に寄与することを目的とする株式会社。*3) 本稿の内容は、2018年3月末までの特定投資業務の3年間に亘る実績に基づくもの。2018年5月31日時点で記述。*4) 普通株に比べて配当金を優先的に受ける、あるいは会社が解散したときに残った財産を優先的に受け取れる等、投資家にとって権利内容が優先的になっている株式。普通株出資に比べて、会社の経営に参加する権利(議決権)については制限されることが多い。*5) 返済順位が他の債権より低い、貸付金・債券。*6) 第四次産業革命に向けたリスクマネー供給に関する研究会の中間取りまとめ(2017年12月9日)では、「リスクマネーとは、経済学的にはリターンに不確実性のある資金のことを指すが、技術的な目利き力に基づき社会的には不確実性があるとみられている事業であっても自信を持って投資判断を行うことが、将来の富の創造に繋がる」とし、「資金の量だけでなく、リスクを取って資金を運用するエクイティプレイヤーが必要」と指摘している。する必要がある。金融機関による主な資金供給手法としては、(1)出資にあたるエクイティ・ファイナンス、(2)通常の貸出金にあたるシニアローン、及び(3)両者の中間的な資金供給手法である優先株*4や劣後ローン*5などのメザニン・ファイナンスがある(図表2)。リスクマネーとは、一般に、シニアローンに比べて返済の優先順位が劣後するエクイティやメザニンによる資金供給を指すが、これらは、資金の回収リスクを伴うものの、その分高いリターンの可能性が見込まれる。また、シニアローンの供給者にとっては、返済の優先順位が劣後するエクイティやメザニン等の資金が供給された場合、シニアローンのみで資金調達が行われる場合に比べて、資金の回収可能性が高まることから、より資金を供給しやすくなる。従って、潜在的な成長力を有する一方で、不確実性も相応に認められる事業が資金調達を行う際には、リスクマネーの供給主体の存在が重要である*6。特集政策金融の意義と取組 2日本政策投資銀行の 特定投資業務の取組について~リスクマネー供給の強化に向けて~ 大臣官房政策金融課 富永隼行、寒川翔平、服部大樹*1図表1 特定投資業務のスキーム政投銀国(産業投資)特定投資業務(特別勘定で出資金管理)民間金融機関・事業者(メガバンク、地銀、民間ファンド等)自己勘定投融資民業の補完・奨励(呼び水効果)出資繰入呼び水効果の起点となるリスクマネー供給(エクイティ・メザニン等の資本性資金)潜在的な成長力を有する事業者◆企業の競争力の強化に資する取組 ●新事業開拓 ●異業種間連携 ●休眠技術の活用 等◆地域の活性化に資する取組 ●地域産業集積の振興 ●地域間M&Aの推進 ●業務再編・事業承継 等図表2  資金供給手法の特色資 産負 債シニアローン劣後ローン資 本普通株式(狭義のエクイティ)優先株式シニアデット(二階)メザニン(中二階)メザニン(中二階)エクイティ(狭義)(一階)デットエクイティ(広義)返済順位要求リターン期間議決権への影響高中低第一順位中最劣後長相対的に中相対的に短相対的に有希薄化無無メザニンエクイティシニアデット(融資)1. 位置付け2. 特色(出所)第1回成長資金の供給促進に関する検討会、財務省提出資料 ファイナンス 2018 Jun.11

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