ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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立しています。このように同じような女性の社会的地位の向上が起こっているにもかかわらず、何故これら2つのグループ間で出生率変化との関係が大きく異なるのでしょうか。この問への答えは、一言で言うと、パートナーシップ形成・出産・子育てをめぐる女性の機会コストの軽減に(社会として)成功したか否かによるのではないでしょうか。そして、この女性の出産・子育ての機会コストの軽減に影響を与える主な要因として、家庭内ジェンダー関係と、仕事と家庭の両立をめぐる政策・制度環境(政策的支援)の2つが考えられます。先進諸国を対象として、女性の労働力率と出生率(TFR)の相関の変化をみると、1970年代には明らかなマイナスの結びつき(女性の労働力率が高い国ほどTFRが低い傾向)がみられましたが、1980年代半ばにこの相関は逆転し、2000年頃にはプラス(女性の労働力率が高いほどTFRも高い)に転じました。つまり、パートナーシップ形成、出産、育児・子育てをめぐる女性の機会コストを減らすことに成功し、その結果、女性の就業と出産・子育ての両立に成功した国々とそうでない国々が1990年代に出現し、わが国は残念ながら後者に属することがわかります。以下で、この成否を分けた主な要因であると考えられる家庭内ジェンダー関係と政策・制度環境(政策的支援)の2つについて詳しくみてみたいと思います。8.家庭内ジェンダー関係と出生力表7には、20~64歳の男女の一週間の平均家事・育児時間における男性の分担割合の時系列データが、ノルウェーとスウェーデンという北欧2国、イギリス、そしてアメリカについて示されています。そして、表8はイタリアとスペインという南欧2国、オーストリアというドイツ語圏の国、および日本についての同様の時系列データを示しています。前者は先に述べた少子化傾向に歯止めをかけ出生率が回復・高位安定をみた国々であり、後者は超少子化が続いている国々です。ここから、前者の国々では、1970年代には男性の家事・育児分担割合は低かった(1972年のノルウェーでは16%、1975年のイギリスでも16%)のですが、その後家事・育児時間における男性分担割合は目覚ましく上昇し、2000年代には35~42%とおよそ4割になっていることがわかります。それに対して、南欧やドイツ語圏であるオーストリアそして日本の男性の家事・育児分担割合は、増加しているとはいえ、前者に比べて低水準です。特に、日本の男性の分担割合は低く、1991年の9%から2011年の18%とこの20年で2倍になってはいますが、男性の家庭内労働時間への貢献度の絶対水準は低く、男性の分担割合の増加の主な理由は男性の家事・育児時間が増えたことよりも、むしろ女性の時間が大きく減少したことによります。さらに、これらの日本を含む旧西側先進諸国のTFRと男性の家庭内労働分担割合との相関をみると、図7 合計特殊出生率(TFR)の推移:北欧・北米・英仏0.00.51.01.52.02.53.03.54.01950195519601965197019751980198519901995200020052010アメリカノルウェーフランスデンマークスウェーデンイギリス図8 合計特殊出生率(TFR)の推移:日本・南欧・ドイツ語圏0.00.51.01.52.02.53.0195519601965197019751980198519901995200020052010スペイン日本ドイツイタリアオーストリア56 ファイナンス 2018 May連 載 ■ 日本経済を考える

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