ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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もを生み終えていると考えられる)妻の予定子供数の平均値は実際の子供数のそれとほぼ同じであり、平均値からみると、わが国の有配偶女性は予定した数の子どもを生んでいると考えることもできます。しかし、これらの数値を「自分たち夫婦にとっての理想子供数」の推移(表5)と比べると、結婚10年以上たっている妻でさえも、理想子供数が実際の子供数より約0.5人多いことがわかります。もしこの差が出産・子育てのコストにより生じているのならば、結婚している女性一人につき平均0.5人ほどの子どもの潜在需要があると考えることもできます。では、このような子供数における現実と理想の差は何故生じているのでしょうか。その手がかりを探るうえで有用だと思われる子育てについての意識に関する時系列データがあります。表6には、複数の全国調査から得られる50歳未満の有配偶女性に対する「子供を育てる上で何が大変ですか」という質問への回答のパーセント分布が示されています。まずこの表から、「特に大変なことはない」と回答している人の割合が大きく減っていることがわかります。一方、「教育にお金がかかる」とする割合は増加傾向にあり、また「進学しつけその他の気苦労」と回答した人も多く、ここから、わが国の人口再生産年齢の妻の間で子育てについての物心両面の負担感が強まっていることが示唆されます。7.欧米先進諸国との比較少子化は日本だけに起こっている現象ではなく、ほぼ全ての欧米先進諸国で1960年代から1970年代に少子化が始まりました。しかし、1980年代半ば以降、特に旧西側先進諸国間で少子化の傾向に差異がみられます。具体的には、TFRの変化の傾向は2つのグループに分けることができ、ひとつは出生率が置換水準を割り込んで低下したもののその後置換水準近くまで回復し、(先進国としては)比較的高位で安定しているグループです。このグループを構成するのは、北欧や北米諸国およびイギリスやフランスなどです(図7)。もうひとつは出生率が非常に低い水準にまで落ち込み、超少子化に歯止めがかからないグループです。このグループに属するのは、日本、イタリアやスペインなどの南欧諸国およびドイツ語圏の国々です(図8)。これら2つのグループを構成する先進諸国では、時期やスピードに違いはありますが、全ての国で(日本でも起こっているような)女性の高学歴化、雇用労働力化、そして結婚や家族をめぐる価値意識の変化が起こっています。それにもかかわらず、日本や南欧およびドイツ語圏の国々では、女性の社会的地位の向上が出生率の低下・低迷をもたらしている一方で、対照的に、北欧や北米諸国およびイギリスやフランスでは女性の社会的地位の向上と出生率の回復・高位安定が両表3  50歳未満の妻の結婚期間別平均出生子供数の推移:1982-2015年0-4年5-9年10-14年15-19年19820.801.952.162.2319870.911.962.162.1919920.801.842.192.2119970.711.752.102.2120020.751.712.042.2320050.801.631.982.0920100.711.601.881.9620150.801.591.831.94表4  50歳未満の妻の結婚期間別平均予定子供数の推移:1982-2015年0-4年5-9年10-14年15-19年19822.222.212.182.2119872.282.252.202.1919922.142.182.252.1819972.122.102.172.2220021.992.072.102.2220052.052.052.062.1120102.082.092.011.9920152.052.031.921.96表5  50歳未満の妻の結婚期間別平均理想子供数の推移:1982-2015年0-4年5-9年10-14年15-19年19822.492.632.672.6619872.512.652.732.7019922.402.612.762.7119972.332.472.582.6020022.312.482.602.6920052.302.412.512.5620102.302.382.422.4220152.252.332.302.43表6  「子育てをするうえで何が大変か」への回答の%分布の推移:50歳未満の有配偶女性、1981-2007年1981199019962007教育にお金がかかる42536666衣食住に負担がかかる1191125進学・しつけの気苦労55585951体が疲れる681015外で働き難くなる9111520その他5777特に大変なことはない2214103無回答2210 ファイナンス 2018 May55シリーズ 日本経済を考える 77連 載 ■ 日本経済を考える

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