ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html出生率と結婚の動向―少子化と未婚化はどこまで続くか―*1慶應義塾大学経済学部 教授津谷 典子シリーズ日本経済を考える771.はじめに本稿では、少子化とその最大の直接要因である結婚の減少(未婚化)について、そのトレンドと要因および今後の展望を中心に、具体的なデータを使って説明したいと思います。少子化とは人口置換水準以下(Below-Replacement Level)への出生率の継続的低下を指します。「置換水準」とは、母親世代の女性が等しい数の娘世代の女性を生み残す水準のことです。出生率が長期にわたってこの水準を割り込むと、人口は早晩減少を始めます。近年、ほぼすべての先進国、多くの中所得国、そして一部の発展途上国において出生率は置換水準を割り込み続ける状況となっています。具体的にこの人口置換水準とは、出生児の性別と女性が生まれてから人口再生産年齢が終わるまで(0~49歳)の死亡確率を勘案した率である純再生産率(Net Reproduction Rate, NRR)=1.00の水準です。たとえばNRR=0.50の水準が相当期間(40~50年)続くと、人口は半分になります。これは、最もよく使われる出生力の水準の指標である合計特殊出生率(Total Fertility Rate, TFR)にすると、TFR=2.1弱の水準に相当します。生まれてくる子どもの性比は通常は女児100人に対して男児104~107人であることから、女性一人当たりのTFRにすると2.0を少し上回る水準になります。TFRは人口再生産率(出生力水準)の指標として最もよく用いられています。なお、いわゆる普通出生率(Crude Birth Rate)はその年に生まれた子供数の人口1000人あたりの比を指す指標であり、厳密な意味での出生率ではありません。出生率の水準の指標としてはTFRが最も適しており、最もよく用いられます。TFRは、ある(架空の)集団の女性が、ある国のある年次の15~49歳の年齢別出生率のパターンで子どもを産み、この15~49歳の35年間にだれも死亡しないと仮定した場合の女性一人当たりの平均子供数です。単純に女性が生涯に生む子供数の平均ではない点に留意が必要です。また、TFRは15~49歳の女性の年齢別出生率の合計であることから、人口再生産年齢(15~49歳)の女性人口の年齢構造の変化や差異の影響を受けません。たとえば、人口が超高齢化している日本と、サハラ以南アフリカ諸国のようにまだ人口転換が起こっていない非常に若い年齢構造の人口をもつ国の出生力の水準を比べる際にも、TFRは最適な指標です。2.戦後日本の出生率低下図1には、戦後日本の女性一人当たりのTFRと出生数の推移が示されています。1947年の日本の出生数は約270万人、女性一人当たりのTFRは4.54でしたが、1957年にはTFRは2.04とおよそ10年強で置換水準にまで急激に低下しました。これがわが国の出生力転換です。この女性一人当たりのTFRが4~5人という高水準から2人強という人口置換水準への低下*1) 本稿は、平成30年3月6日に開催された、財務総合政策研究所の先端セミナーの講演録をもとに再構成したものである。50 ファイナンス 2018 May連 載 ■ 日本経済を考える

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