ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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私の週末料理日記その214月△日土曜日新々今年はやけに桜が早かった。3月のうちに花は散って4月になったら葉しかない。3月末以降の花見を名目にした会合は、残念なことになってしまったが、だからといって飲み会を止めるということになるはずもない。葉桜を楽しむのもまた一興と風流を気取って飲み始め、世の中面白くないことが多いから、ガブガブと飲んで愚痴をこぼしクダを巻いて大酔する。要するに、いつものおじさん達の飲み会で終わる。昨晩の会もそうだった。遅くまで大声で世を憂いていたのは覚えているのだが、危なっかしい足取りで帰宅し、倒れこむように寝て一晩明けると、何に慨嘆して冷酒を煽っていたのかさっぱり思い出せない。朝起きて早々にスーパーに行って、恒例の食材の買い出しを済ませたら、さあスポーツジムに行かなくちゃと思う。そう思うのだが、飲みすぎのせいか何となく体がだるい。怠惰と克己の心中の葛藤しばらくにして、情けなくも、結局もう一度寝床に入る。目覚めれば昼近いが、まずは朝飯だ。じゃがいも、いんげんと玉ねぎの味噌汁に、鯵の干物、焼いた厚揚げ、納豆、高菜の漬物、梅干しで飯二杯。腹がふくれたら、ますますジムに行くのが面倒になり、小一時間の散歩でお茶を濁す。戻って風呂を使い、髭を剃ってさっぱりしたところで、一週間分溜まっていた郵便物の整理に取り掛かる。大半は広告やら勧誘やらなのだが、クレジットカードの明細とか年金関係の書類や転居の通知が混ざっているから、結構面倒だ。家の連中は、面倒くさがって整理しないので、結局私が連中の分まで、封筒を開け中身を確認して仕分けさせられることになる。整理作業を終えたらもう2時近い。昼飯は何にしようか。家内が昨晩作ったとろろの残りがあったので、蕎麦を茹で、とろろ蕎麦にして食す。食べないと言っていた家の者も横から手を出すので足りなくなり、さらに追加を茹でる。そばつゆは、市販の麺つゆに醤油を少々たらし、薬味は、削り鰹にねぎとわさびだが、結構うまい。昼食後、家の者が美容院だ、ジョギングだ、買物だと出かけたのを幸い、ネット配信で映画を観る。女房がいるときは、邦画特に戦争物、任侠物を観るのはご法度なので、このチャンスを活かさない手はない「あゝ決戦航空隊」(東映、昭和49年)を観る。この作品を史実に照らして評すれば、海軍で特攻作戦を主導した大西瀧治郎と戦争中上海で海軍の物資調達機関長をしていた児玉誉士夫が美化され過ぎているということになろうが、純粋に映画として観れば、主演の鶴田浩二の魅力が存分に発揮されたなかなかの作品である。鶴田浩二は、大西瀧治郎海軍中将を演じている。大西提督は、レイテ決戦時に第一航空艦隊司令長官として神風特攻隊を編成して送り出し、大戦末期には軍令部次長として終戦に最後まで抵抗し、終戦の翌日自決した。鶴田浩二演ずる大西瀧治郎は、各種資料から浮かぶ大西像とはかなり違うように思うが、彼の役者としての持ち味である哀愁漂う声調と、愚直で礼儀正しくそしてもの悲し気な表情が凝縮され、実にいい。彼の代表作である「人生劇場」の「飛車角」役以上なのではないか。終戦時の海軍大臣米内光政役は池部良である。これまた史書からうかがわれる米内像とはかなり異なるものの、名演である。映画のクライマックスは、終戦直前、最高戦争指導会議の部屋の外での大西と米内の応酬である。陛下の御出座を待つ最高戦争指導会議の場に、同会議の議員でない軍令部次長の大西が入ってきて、和平反対を唱える。激怒した米内は大西と軍令部総長の豊田を部屋の外に連れ出し、叱る。大西は、非礼を詫びた上で、46 ファイナンス 2018 May連 載 ■ 私の週末料理日記

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