ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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コラム 海外経済の潮流110大臣官房総合政策課 海外経済調査係長 赤嶺 彰一キューバ共和国経済の現状と今後2015年7月、オバマ政権において54年ぶりに米国とキューバ共和国(以下キューバ)の国交が回復し2国間の経済関係の進展などに注目が集まった。本稿では、キューバ経済の特徴やその動向について概観してみたい。キューバは予防医療に取り組み、医療費が無料であるなど、医療に重点を置く政策を採用しているため乳児死亡率*1、平均寿命*2などの点で先進国と遜色がない*3という特徴を持っている。これらを背景として、GDP(産業別)*4においては、医療(公衆衛生・社会扶助)が商業(19.1%)に次ぐ2番目に大きなウエイト(16.8%)を占めている【図表1】。次に、GDP(2016年)を需要項目別にみてみると、個人消費が58.9%と相当程度のウエイトを占めるほか、社会主義の国らしく、政府支出も23.2%と比較的大きなウエイトを占める*5【図表2】。なお、純輸出は2.3%と小さいが、ここ数年の動きをみると2011年に8.6%を占めていた純輸出が2015、16年に急減している【図表2】。これは、原油価格の下落を背景に、最大の貿易相手国であったベネズエラが失速しキューバの対ベネズエラ輸出が減少したことを主因としている*6【図表3】。続いて、米・キューバ間の貿易関係に注目すると、2001年に米国政府は、食料・医薬品等の人道物資に限り、米国の対キューバ輸出を解禁したことなどにより、2008年には輸出が増加した*7。【図表4】。最後に、ソ連崩壊(91年)以降の実質GDP成長率について概観してみる。当時、キューバ産の砂糖とソ連産の原油はキューバにとって有利な条件で取引されていたこと、キューバの貿易額の7割がソ連との貿易であったことなどから、ソ連崩壊に伴いキューバの実質GDP成長率は、大幅なマイナス成長を記録、1993年には▲14.9%となった【図表5】。以降、キューバは経済面における改革に着手し*8一部に市場経済を導入したことに加え、1999年、ベネズエラにチャベス政権が成立後、両国の経済的な関係が深まったことなどから2006年には、前年比12.1%の経済成長を記録した。しかし、2008年以降、ハリケーン被害(2008年8~9月)やリーマンショック(2008年9月)、前述のベネズエラ経済の低迷を背景とした輸出の減少などもあり、2016年の実質GDP成長率は0.5%*9となっている【図表5】。オバマ政権は国交正常化を控えた2015年1月、情報通信分野でキューバ投資を認めるとし*10、今後米国企業のキューバ投資が増える可能性がある。2017年にトランプ政権への交代後は、米国のキューバ制裁強化*11という障害も存在し、米・キューバの経済関係には不確実性も存在するが、今後のキューバ経済の動向に注目したい。(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。*1) 乳児死亡率(1000人あたり、世界銀行):6人(米国)、4人(キューバ)、2人(日本)*2) 平均寿命(世界銀行):79歳(米国)、80歳(キューバ)、84歳(日本)*3) 一人当たりGDPでキューバと同水準の国々と比較すると、乳児死亡率、平均寿命いずれもキューバは突出している。*4) キューバ政府が公表しているキューバの統計年鑑ANUARIO ESTADISTICO DE CUBAの最新年は、2016年である。*5) 日本のGDPに占める政府消費の割合は20.3%(2016年)、米国のGDPに占める政府消費及び投資の割合は17.3%(2016年)。*6) ベネズエラ経済の失速を受け、2016年の最大の貿易相手国は中国となった。*7) 2017年の米国の対キューバ輸出は、2.8億ドル。*8) ア.ドル所持解禁、イ.自営業の部分的認可、ウ.外国投資の導入促進、エ.農作物の自由市場の再開など。なお、1990年代半ばに経済が一応安定すると、改革は中断。2004年11月には国内での米ドル流通が禁止された。*9) ANUARIO ESTADISTICO DE CUBA 2016による。*10) オバマ前政権は2014年12月17日、外交関係再構築に向けた協議開始を発表した。*11) キューバ軍関連組織との取引規制や渡航制限など。44 ファイナンス 2018 May連 載 ■ 海外経済の潮流

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