ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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するのである。余談だが、この鶴の舞。当時からして「こんな技あるかよ」と訝しむ自称・格闘ファンは多かったものの、これは中国福建省に伝わる「白鶴拳」という拳法のれっきとした技である。2011年4月、世界的な総合格闘技の大会であるUFC(Ultimate Fighting Championship)において、ミヤギと同じく伝統派空手を身に付けた日系ブラジル人リョート・マチダが、当時UFCのレジェンドとなっていたランディ・クートゥアを相手にこの鶴の蹴りを繰り出し、その一発でKOしてしまったことは記憶に新しい。いずれにせよ、見事に優勝を果たし、「やったよミヤギ!」と叫ぶダニエルと、満足気な師匠のアップを観た時、さすがに涙しない男は皆無である。やはり本作、ラルフ・マッチオとノリユキ・パット・モリタの名コンビ、そして監督ジョン・G・アヴィルドセン、音楽ビル・コンティという『ロッキー』(1976年)の鉄板コンビが奇跡のコラボを果たしたからこその名作…。いや、そんな平板な感想を述べるニワカ映画評論家が仮にいたとしたら、問いたい。全く同じ要素を引き継いだ『ベスト・キッド2』(1986年)の、でんでん太鼓以外何も記憶に残らないデタラメぶりと、『ベスト・キッド3』(1989年)の、もはやストーリー、キャラクターの何一つ思い出せないデタラメぶりは、一体どういうことなのかと。ハリウッドの莫大な予算を使って行われたこの“マウスのノックアウト実験”で分かったことは、やはり「コブラ会」。その強烈な存在感と、それをベースとしたスクールカーストの爽快な下剋上。これこそが、この第一作をデタラメ続編群と隔て、永遠に残る名作たらしめている、ということであろう。やはり「最高のヒーローは最高のヴィラン(=悪役)がつくる」*3(かつお2017)である*4。ちなみに、海外留学経験を持つ官僚諸兄であれば、ダニエルさんや少年空手トーナメントのアナウンサーが度々「ミヤジ」と発音をしていることにお気づきになるであろう。「Miyagi」。このスペルでは、英語圏*3) 最近のわちゃわちゃしたスーパーヒーロー映画ではヒーローの個性が強烈過ぎて、映画序盤の初登場からだいたい映画が終盤になる2時間後にはあっさりくたばるヴィランのダサさをみてイマイチ盛り上がらない経験をした人もいるのではないか。マーク・ハミルという特に個性のない少年を映画史上最高のヒーローたらしめたのは、映画史上最高のヴィラン「ダース・ベイダー」であったことを疑う80年代映画ファンは皆無であろう。*4) アメリカのドラマなどで時折、ジョック(=スクールカースト上位者)のいじめっ子を指して「Cobra Kai」と揶揄するセリフを耳にするが、かように一般名詞化していることも、読者諸兄には常識であろう。の人間には「ジ」だ。「Igの合議はこちらにもお願いします。」などを拙い英語力で「Please Aigi of Ig come here」などと言おうものなら、外国人さんの頭は大混乱となる。こうした英語での国際交渉の難しさを教えてくれるところも、本作の魅力である。いずれにせよ、この4月に新たに入省した新人諸君には、コピーとりや「ポキポキ」作成の一つ一つも、何か特別な訓練になっていて、それ故に補佐は私に命じているんだ、という心を(真実はどうあれ)いつも忘れないでいて欲しいことは、言うまでもない。 ファイナンス 2018 May39わが愛すべき80年代映画論連 載 ■ わが愛すべき80年代映画論

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