ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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評者渡部 晶神田 眞人 著超有識者達の慧眼と処方箋 強い文教、強い科学技術に向けて Ⅲ特定非営利活動法人学校経理研究会 2018年2月  定価4,500円(税抜)本書は、著者の『強い文教、強い科学技術に向けて』(2012年、372頁)、『超有識者達の洞察と示唆―強い文教、強い科学技術に向けてⅡ』(2016年、613頁)に続くシリーズ第三作となる。600頁の大著である。刊行に寄せて、濱田純一氏(東大総長(当時))、清家篤氏(慶應義塾塾長(当時))、鎌田薫氏(早大総長)からの言葉がそれぞれの本の巻頭に掲載される。著者の神田眞人氏は、現在主計局次長で、予算編成や財政に携っているが、その時々の職場での粉骨砕身の働きや八面六臂の活躍をよく知られる。「世界銀行超活用序説」、「国際金融のフロンティア」など多数の著作もある。後者は、2016年2月号の本誌ライブラリーで紹介した。神田氏は、現在も進行中の大学改革に深くコミットする有力な論者でもあり、OECDコーポレートガバナンス委員会議長の任にもある。本書の構成は、上記のほか、「まえがき」、「セクション1 問題意識 超有識者達の慧眼と処方箋」、「セクション2 政策 強い文教、強い科技の議論のために」、「セクション3 番外編~WLB(ワークライフバランス)時代に向けて」、「あとがきにかえて」等となっている。高い凝縮性と緊張感ある独特の文章の「まえがき」で、神田氏は、「この、産業革命以来の激変の中、当然視してきた制度や秩序、ひいては価値体系が破壊されていくことに受け身であってはいけない。混沌と悲劇を受け入れるのではなく、或は、今だけ良ければ良いと不合理で、次世代に無責任な態度を取るのでもない。真摯に現状を把握し、一人ひとりが生き残りをかけ、そして、より幸福な社会構築を目指して、考え、行動する必要がある」とする。そのための神田氏の知的な取組みを読者に共有する試みとして本書は編まれた。セクション1は、五神真氏(東大総長)から明石康氏まで23名の超有識者たちとの対談が掲載される。対談にあたって、神田氏は、半藤一利氏のような多作の方でも、梶田隆章氏のような難解な学問の方でも、その著作をあらかじめ読み込むこととしているという。その事前準備には正直頭が下がる想いだ。作家の池井戸潤氏との対談については、親しい編集者から、なかなか商業誌では真似のできない充実度だという感想をきいた。この中で、池井戸氏が、「バンキング業務の将来は、もともと厳しい」といい、しかしそれがないと「世の中の会社はおおいに困る」、そのためには「経済が全般的に活性化しないと」という示唆に富んだコメントを引き出す。また、東大名誉教授の三谷太一郎氏との対談では、神田氏は政界で財政の持続可能性についての関心があまりに希薄であることを問う。それに対し三谷氏は「日本の政党政治の歴史上、経済面での成功体験は『拡大経済路線』に限られています。それが大きい。つまり、政党政治において重要なのは選挙の結果であり、それを重視する限り、『拡大経済路線』をとらざるをえないということがあります。しかし、それがいつかは限界に至ることも明らかです」と発言する。更に羽生善治棋士からはAIの可能性とリスク、デービット・アトキンソン社長からは、今、話題の観光戦略や文化政策改革の方向性を引き出している。セクション2では、大学改革の現状について対談が掲載され、神田氏は、大学の閉鎖性、内向性が改革の進展を妨げていることを強く指摘する。セクション3は、公務員給与に関する論考や旅行などの肩のこらない題材となっており、総合旅行業務取扱管理者や温泉ソムリエマスター等の資格を持つ著者が、80ヶ国の旅行経験も踏まえ趣味の大切さをうたっている。「あとがきにかえて」では、昨年の総選挙を受けた、教育負担軽減への対応を解説している。内容に相応し、分厚く重みのある1冊であるが、ぜひ、手にとってご覧頂きたいと思う。 ファイナンス 2018 May35ファイナンスライブラリーFINANCE LIBRARYファイナンスライブラリーライブラリー

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