ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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独立行政法人 造幣局 海外業務課長 小松 雅彦独立行政法人造幣局(以下「造幣局」という。)は近年、ジョージアの一般流通貨幣と記念銀貨幣を立て続けに製造する機会を得た*1。ジョージアは黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス諸国の一つであり、平成27年4月に外務省が呼称を変更するまで、日本においては「グルジア」と呼ばれることの方が多かった。同国出身の栃ノ心関が本年初場所で幕内優勝するなど、ジョージアという国名を耳にする機会も増えているものの、多くの方にとってはまだまだなじみが少ない国であろう。本稿では、造幣局が製造したジョージア貨幣についてご紹介するとともに、これらの貨幣を通じて、知られざるジョージアの魅力にも迫ってみることとしたい。なお、文中、意見に関することには私見が含まれていることをお断りしておく。120テトリ流通貨幣造幣局は、平成28年1月にジョージア20テトリ流通貨幣1,400万枚の製造供給を同国国立銀行から受注した。造幣局が外国の一般流通貨幣の製造を請け負うのは、平成24年11月に落札したバングラデシュ2タカ流通貨幣5億枚に続き戦後2例目である*2。「テトリ」とは、ジョージアの通貨単位「ラリ」の100分の1の補助通貨単位であり、20テトリの邦貨換算額は、造幣局が同貨幣の製造受注を公表した平成28年10月当時のレートで約14円である。なお、この貨幣は直径25ミリ、量目5グラムであり、10円貨幣(直径23.5ミリ、量目4.5グラム)よりも若干大きい。*1) 邦貨と異なる仕様の外国貨幣を製造することは、貨幣の製造技術やデザイン力の維持・向上、改鋳を含む様々な要請への対応力の強化に資するものである。そのため造幣局では、邦貨の製造等に支障のない範囲内で外国貨幣の製造受注に取り組んでおり、平成19年以降これまで、今般のジョージア貨幣2種を含め、アジア・中東を中心に10か国14種類の外国貨幣を製造している。これらの外国貨幣の詳細については、造幣局ホームページ(https://www.mint.go.jp/coin/data/gaikoku_kahei.html)をご参照いただきたい。*2) 2タカ貨幣の落札に至る経緯については、ファイナンス2013年2月号掲載「バングラデシュ2タカ貨幣の製造受注について」(泉和也)で詳細を紹介している。20テトリ貨幣の素材は、バングラデシュ2タカ貨幣と同じステンレススチールである。500円から1円までの邦貨6種に用いられている銅合金やアルミニウムとは素材特性が異なり、2タカ貨幣の製造においてはこの不慣れな素材の加工等に苦労した。しかし、そこで得られた技術的な知見は多く、これを活用できる機会を早くも得たことは、20テトリ貨幣の製造を受注したことの大きな意義の一つであったと考えている。さて、20テトリ貨幣のデザインに目を向けると、表面には牡鹿が描かれている。これは、ジョージアの国民的な画家であり、その肖像が同国の1ラリ紙幣にも採用されている、ニコ・ピロスマニ(1862年~1918年)の作品をモチーフにしたものである。なお、ピロスマニには、彼の町を訪れたフランス人女優に恋をし、その気持ちを伝えるため、彼女の宿泊するホテルの前の広場を花で埋め尽くしたという逸話がある。お気づきの方もいらっしゃると思うが、1980年代後半に日本でも大ヒットした「百万本のバラ」は、ピロスマニの恋の物語を歌ったものである。貨幣裏面中央部の模様は、ボルジュガリという、ジョージアにおける太陽と生命の木のシンボルである。このボルジュガリの左右にある19と93は、この貨幣の最初の製造年である1993年を示している。貨幣の製造年または発行年に合わせて年銘を変えていくのが一般的であるところ、年銘を変更しないというジョージア方式は大変珍しい。また、ジョージアは1995年に国名を「REPUBLIC OF GEORGIA」から「GEORGIA」に変更しているが、貨幣の周囲部には旧名が変更されずに記載されている。ジョージア貨幣の製造について24 ファイナンス 2018 May

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