ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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5加藤雅俊委員 ― 創業活動を通した経済活性化に 向けた取組みが重要日本における創業活動は国際的に見て相対的に低い水準にある(図5)。これまで日本では、創業すること自体を促進する政策をとってきた。しかし、経済成長に貢献するのは一部の企業のみであることを考えると、多くの人々が起業家になることを奨励する政策をとるのではなく、(1)「参入(創業)」より「退出(撤退)」へ向けた支援、(2)成長見込みの高い企業への重点的な支援、を検討すべきである。人的資本の水準の高い起業家は成功する可能性が高い一方で、機会費用が相対的に高く、雇用される機会も多い。このような創業後に成長見込みの高い起業家の創業のインセンティブを高めるために、倒産・解散手続きの煩雑性の解消や失敗することの文化的・社会的重圧の軽減が必要である。また、スタートアップ企業の中でも成長するのは一部の企業のみである。選抜しないで支援した場合は、全体として経済への正の効果が期待できない。したがって、創業活動の活性化を通した経済成長を実現するには、成長見込みのある企業や業界への重点的な支援を行うことが求められる。創業活動を通した経済活性化を実現するには、終身雇用や解雇規制を含めた現在の労働慣行の改革を含め、日本の社会は様々な変化を受け入れる必要がある。6山田久委員 ― 付加価値労働生産性向上のための プライシング戦略と新たな雇用 システムの構築日本の生産性を巡る問題の核心は「付加価値労働生産性の低迷」にある。その状況を打破し、イノベーションを生産性向上に結びつけるためには、新たなアイディアやノウハウを取り込み、これまでにない組み合わせで新たな製品やサービスを製造する「探索型(*)」のイノベーション((*)入山章江(2015)『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』を参考にしている。)を強化する必要がある。加えて、付加価値生産性を引き上げるためには、低価格戦略を見直し、イノベーションによって生み出された実質価値の向上を価格引上げにつなげるプライシング戦略が重要な取組みとなる。日本の賃金・雇用システムは、初めに人ありきの発想で、従業員の属人的な能力に基づいてランク付けをする職能システムである。この利点を残しつつ、企業は人材ポートフォリオの多様性を高めるために、欧米流の職種・職務システムを移植した「ハイブリッド・システム」を構築すべきである。そのためには、特定職業でのプロフェッショナルのウェイトを増やすことが鍵となる(図6、図7)。今後はモノとサービスの融合が進み、値上げの根拠となる付加価値はサービス部分に求められることが多くなる。「サービスはタダ」との発想を見直し、価値あるサービスにはきちんと値付けしていくことが極めて重要になる。図5 初期段階の総合的な創業活動(TEA*)051015202530ChileMexicoUnited StatesAustraliaCanadaSlovakiaUnited KingdomPortugalNetherlandsEstoniaHungaryPolandAustriaGreeceLuxembourgSwitzerlandSwedenIrelandSloveniaNorwayFinlandDenmarkSpainBelgiumFranceGermanyItalyJapan(%)*18歳から64歳人口における初期起業家または新事業の所有者-経営者の割合。(出所)加藤(2018) ファイナンス 2018 May21

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