ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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生産性向上の鍵となる。生産性の向上に向け、産業横断的な政策だけではなく、業種特性に対応したオーダーメイドの政策を施行すべきである。更に、産業内における企業間での生産性のばらつきを勘案し、一層のきめ細やかな政策の設定が望まれる。生産性向上に向けた方向性を見出すために、経済学の先行研究を探ると、「規制」、「国際化」、「ITや無形資産投資」といったキーワードが浮かび上がる。規制緩和による経済全体の新陳代謝改善、高品質の日本型サービスの国際展開を通じた市場の拡大、ITと無形資産を利活用したサービスの改善や質の向上など、検討すべき方策は無数にある。労働や財源といった資源が制約されている現実を踏まえると、より高い効果をもたらす政策をデータや研究蓄積の中から選出し、速やかに実行し、効果を測定するといったサイクルを確立することが重要である。4清田耕造委員 ― 海外展開、生産性及び研究開発・ イノベーションの間にはそれぞれ 正の相関関係企業の海外展開と生産性の相関関係をみると、海外展開する企業は海外展開しない企業に比べて生産性が高い傾向にある。生産性の高い企業の順番は、「輸出・直接投資する企業」、「アウトソーシングする企業」、「国内に留まる企業」の順となっている(図4)。企業の海外展開と生産性の因果関係をみると、日本企業は、海外展開を通じて生産性が高くなる傾向(学習効果)と生産性が高い企業が海外展開を行う傾向(選抜効果)の両方の効果がある。企業の海外展開の要因として生産性が及ぼす影響自体は小さい。むしろ、進出先の情報、企業の資金制約、研究開発活動等、その他の要因がより強く働いている可能性がある。企業の海外展開と生産性、研究開発をみると、研究開発を活発に行うことが輸出につながり、輸出がさらなる研究開発を促すという相互補完的な関係がある。また、海外で研究開発活動を行っている日本企業はイノベーション効率(少ない研究開発でイノベーションを実現)が高い傾向にある。企業の海外展開と生産性について、マクロレベルの含意を考えると、日本企業の海外への直接投資に伴い生産性の高い工場が閉鎖されており、それが日本の製造業全体の生産性を引き下げる一因となっている可能性がある。海外展開、生産性及び研究開発・イノベーションの間にはそれぞれ正の相関関係がある。企業活動の海外展開を通じて日本経済の生産性成長を達成していくのは一理ある。企業の生産性向上の達成には、国レベル・企業レベルでの企業活動が「見える化」できるデータ整備が重要である。今後の日本経済の成長のためにも、政府統計の整備の改善、および日本企業によるデータと人材の有効な活用に期待する。図4 日本企業の海外展開と生産性の分布(注)非国際化企業は直接投資も輸出も行っていない企業、輸出企業は輸出を行っているが直接投資を行っていない企業、FDI企業は直接投資を行っているが輸出を行っていない企業、そして輸出・FDI企業は輸出と直接投資を両方行っている企業である。(出所) 若杉他(2011)。20 ファイナンス 2018 May

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