ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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に応じた価格」へマーケティング手法を適正化して、政府は競争環境の整備に向けて取り組むこと、(2)人的資本の維持・確保に余裕がなくなる前に、グローバル展開を視野に入れた国際標準化を見据え、行政も巻き込んだ形でサービスのシステム化・標準化に取り組むこと、(3)政府は過剰供給の効率化や公益的な目標を達成するための制度・規制の再設計に取り組み、事業リスクを軽減するために企業が対処できない課題に対して大きな方針を示すこと、が重要になる。さらに、第4次産業革命やSociety5.0を推進する「攻めの政策」は、同時にその副作用を最大限抑制するための「守りの政策」とセットで初めてバランスを保つことができる。わが国の生産性の向上と付加価値の創出から生まれる富を国内に還流させるためには、「守りの政策」をしっかり検討する必要がある。2吉川洋教授 ―新しい需要の創出を目指す日本は人口減少と同時に高齢化が進んでいる。たしかに人口減少と高齢化は、社会保障・財政に深刻な問題を生み出す。しかし、「人口が減少するためGDPのマイナス成長が自然だ」という議論は間違っている。経済は人口によって規定されるものではない。日本は高度成長時代、人口増加率は1.2%だったが、GDPは10%上昇し、一人当たりのGDPの伸びを示す労働生産性は約9%上昇していた(図1)。日本と並ぶ人口減少大国であるドイツでは、人口減少で経済がゼロ成長になるとの意見は有識者から聞かれない。人口が減少すると消費が減るとの見方があるが、これは同じ値段で同じモノを売り続ける前提に立った議論である。人口が減少する中で消費が増えるのは、付加価値の上昇を反映して単価が上がっていったり、新しいモノやサービスが生まれることによる。日本経済が成長するためには生産性が鍵を握る。生産性が向上し、経済が成長するためにはイノベーションが必要になる。TFP(全要素生産性)は供給側で資本・労働の投入量で説明できる以上の付加価値の伸びを表しており、供給側で何らかの改善がある場合、TFPは上昇する。しかし、供給側の条件はこれまでと変わらないのに、需要側のアイディアにより付加価値成長が生まれている事例がある(高齢者用の紙おむつ)。つまり、アイディア一つで需要は創出できることがわかる。19世紀の初頭から約100年の間のイギリスでは、サービス収支の黒字が貿易収支の赤字を上回ることで経常収支の黒字を出し続けた。サービス収支の黒字は、海運収入、商社の収益、あるいは保険料であった。イギリスは単に自国の貿易のみを行っていたのではなく、世界の貿易全体のインフラストラクチャーを提供していたのであり、イギリスの海軍力と情報力がこれを可能にした。生産性向上には情報力も重要である。イノベーションは、民間企業だけの話ではなく、政府も取り組まなければならない課題である。世界の港湾ランキングを見ると、日本の港のランキングは低下し続けている。港町が競争力を失えば、その港町に所図1 人口と経済成長05001,0001,5002,0002,5003,0003,5004,00018701880189019001910192019301940195019601970198019901913年=100人口GDP(出所)Maddison, A. (1995) , Monitoring the World Economy 1820-1992, Paris:OECD18 ファイナンス 2018 May

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