ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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財務総合政策研究所 総務研究部総括主任研究官 奥 愛/主任研究官 橋本 逸人■研究会の目的と座長・委員等財務総合政策研究所では、大橋弘教授(東京大学大学院経済学研究科)を座長に、「イノベーションを通じた生産性向上に関する研究会」を開催した。人口減少や財政制約など日本経済を取り巻く様々な課題を乗り越えて、より力強い経済成長を達成するには、イノベーションが欠かせない。本研究会では、イノベーションを通じて、生産性向上を目指すための方策について、技術・労働・国際貿易など多角的且つ専門的な知見から提言し、日本経済の更なる活性化に繋げるための一助になることを目的とした。委員は、加藤雅俊准教授(関西学院大学経済学部)、清田耕造教授(慶應義塾大学産業研究所・大学院経済学研究科)、滝澤美帆教授(東洋大学経済学部)、山田久理事(株式会社日本総合研究所)である。さらに、特別講演者として、安宅和人氏(ヤフー株式会社CSO(チーフストラテジーオフィサー))、高木聡一郎氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授/主幹研究員、研究部長)、森正弥氏(楽天株式会社執行役員、楽天技術研究所代表、楽天生命技術ラボ所長)、吉川洋教授(立正大学経済学部、財務総合政策研究所名誉所長)からも報告があった。(すべて50音順。肩書は2018年3月末時点。)以下では、研究会の座長及び委員を中心に研究成果のポイントを報告する。1大橋弘座長 ―生産性向上と新たな付加価値の創出わが国は人口減少をはじめ大きな構造的難題に直面している。こうした課題の解決に向けて、生産性向上や付加価値創出の観点からの取組みが重要である。わが国では生産性指標として労働生産性を強調するがあまり、生産性の向上とは、賃下げやリストラをすることでコストを削減することとの誤ったイメージが企業経営者を中心に強く持たれてきてしまった。人口が減少するなかでも市場拡大期と同様のマーケティング手法をとれば、シェア維持のための持久戦と安値競争という悪循環に陥ってしまう。人口減少下において国内消費市場を活性化するためには、「付加価値に見合った価格」を消費者に提供するような事業環境を作り出す必要がある。そのためには、(1)低価格に頼ることなく、消費者ニーズを精緻に捉え解析するイノベーションをビジネスモデルに取り入れ、成熟化した需要家ニーズを更に深堀りするような付加価値を創出すること、(2)既存の価格付けに関し、優れた顧客対応能力を持つがためにサービスを標準化できずグローバル展開が出遅れたことから、サービス内容を標準化・システム化することを通じて価格付けを行うこと、がデフレ脱却とグローバル展開を考える上で重要となる。これら2つにより「付加価値に見合った価格」を作り出すために、社会・経済システムを「量に頼ったデフレ均衡」から、将来に向かって望まれる「付加価値に見合った脱デフレ均衡」へとジャンプさせる必要がある。それには、経済における多くの主体(企業や消費者)が同時に新しい均衡へ移行するという意思を持って初めて均衡の移行が可能となる。政府は新たな制度や規制のあり方を積極的に再検討するべきである。イノベーションを通じた生産性向上は、社会・経済における需要家や企業行動の変容を通じて、産業構造を大きく変化させる力を持っている。グローバルに進展するイノベーションの流れを取り込みながら、いかにわが国社会の厚生増大に繋げていくかが企業に求められる戦略であり、国の政策に求められる視点である。具体的には、(1)ビッグデータ時代に対応し、企業はビジネスモデルの転換をきっかけに「付加価値「イノベーションを通じた 生産性向上に関する研究会」 研究成果の報告 ファイナンス 2018 May17

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