ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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おいて報告された全25事例について、財務省HPを参照していただければ幸いである。https://www.mof.go.jp/financial_system/fiscal_finance/renkei_jirei.html4.今後に向けて地域金融機関から事例を収集する中で、日本公庫と有機的な連携が実現している、優良な事例についての報告が多くある一方で、協調・連携にはまだ課題もあるとの声も聞こえてきている。例えば、「案件を紹介することはよくあるが、日本公庫からの案件紹介を増やしてもらいたい」、「地域によって連携に関する温度差が大きい」といったようなものである。日本公庫では、これまでも協調・連携を行ってきたところであるが、特にここ数年、積極的に、創業セミナーでの連携や、協調融資に力を入れているところである。引き続き、全国的にそのような取組みを徹底すると同時に、日本公庫と地域金融機関の営業店同士の、現場レベルでの意思疎通を行って認識のすり合わせを行うことも重要である。官民金融機関は、地域の事業者が直面している課題に向き合い、どのような支援が必要か議論し、連携して支えていくのが望ましい姿ではないだろうか。官民の金融機関に限らず、中小企業を支援する各機関や自治体等の緊密な連携によって、一機関のみでは提供できない付加価値の提供が可能となる。今日、各関係機関間の連携は多様化しているところ、前掲事例の通り、地域のニーズによって望ましい連携のあり方は異なるが、各機関の連携を前に進める方策の検討に際し、これらの事例が参考となれば幸いである。地域経済の活性化に貢献し、ひいては日本経済の持続的成長に寄与することが、官民の金融機関をはじめとする各機関に求められているところ、それぞれの機能を十全に発揮し、この使命を果たしていくことが期待される。〈参考文献〉● 中小企業庁「2017年度版中小企業白書」●中小企業庁「2017年度版小規模企業白書」● 鈴木正明著、日本政策金融公庫総合研究所編集「新規開業企業の軌跡」(2012年)● 樋口美雄、村上義明、鈴木正明、国民生活金融公庫編著「新規開業企業の成長と撤退」(2007年)● 日本政策金融公庫総合研究所「2017年度新規開業実態調査~アンケート結果の概要~」(2017年12月)自分の美容室を持ちたい―。その夢が実現したのは、銀座の美容室で働き始めて6年目のことでした。ビルの改装に伴い店舗を移転しなければならないため、それを機に何人かの美容師が辞めることとなりました。そこで、私も良い機会だと考えて自分の店をオープンすることを決意しました。最初に考えたのは立地です。郊外の人気住宅地がいいのか、地方の方が採算はとりやすいのか、様々なことを考え迷いましたが、最終的には銀座に決めました。やはり、長く働いていた銀座の方が土地勘があって安心だと思ったのです。問題は資金でした。場所を決めて内装工事の段取りをしてみると、自己資金ではとうてい賄えないことが判明しました。すでに顧問税理士を決めていましたので、相談したところ、「まずは日本公庫に相談してはどうか」とアドバイスをしてくれました。早速、日本公庫東京中央支店(茅場町)に話を持ち掛けたところ、日本公庫の制度である「女性、若者/シニア起業家支援資金」の利用を勧められました。ただ、実績がないので融資を受けられる金額は限られ、開業資金をすべて用意するのは難しそうでした。そこで日本公庫の担当者が提案してくれたのは、東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」を併用することです。これは地域での創業を支援するために、地域金融機関を通じて低金利・無担保で融資が受けられる制度です。経営サポートもセットになっています。東京都からは窓口となる第一勧業信用組合(以下、第一勧信)を紹介していただきました。内装工事の支払期限まで1カ月を切っているという慌ただしいスケジュールではありましたが、第一勧信には迅速に対応していただき、結果、日本公庫と第一勧信から、2分の1ずつの融資を受け、必要な開業資金を満額調達することができました。創業時にお世話になった皆様からは、オープン後にもそれぞれサポートいただいております。日本公庫は美容室向けの融資を数多く手掛けているそうで、美容室向けの集客セミナーなどの案内をしてくれます。また、東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」では、半年に一度、地域創業アドバイザーと面談をすることになっていますので、その際に助成金などのアドバイスを受けることができます。第一勧信でも起業家の交流会なども開催してくれるので、そこで知り合った方からお客様を紹介していただくこともあります。オープンから早くも1年半ほど経ちましたが、有難いことに経営状況は順調です。今後は美容室の運営だけでなく、ショーやイベントに参加するなど、クリエイティブな活動も積極的にしていきたいと考えていますし、いずれは2店舗目をオープンしたいと考えています。そうした目標を実現するためにも、日本公庫、第一勧信に引き続き支援をお願いしたいです。地域金融機関と日本公庫の連携 ~創業者目線から~日本公庫と地域金融機関による協調融資により、開業資金を満額調達。 創業後も支援機関より充実したサポートが。Fortuna(フォルトゥーナ) 春原 舞さんすのはら・まい/長野県上田市出身。2016年12月に美容室「Fortuna」(中央区東銀座)をオープン。「Fortuna」では、特別な浄化作用のある設備を設置し、水道水の使用を控えるとともに、シャンプー台にはマイクロバブルバスを導入。さらに薬剤も肌にやさしいものを利用。趣味は、美術館巡り、スノーボード。主な活動歴として、全国ワインディングコンテスト優勝、Nakano Hiromichiコレクション バックステージ参加。 ファイナンス 2018 May13政策金融の意義と取組特集

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