ファイナンス 2018年5月号 Vol.54 No.2
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散し、経済合理性の観点からより顧客の要望に沿った融資が可能になる。エ-1 第一勧業信用組合(東京都)日本公庫との協調融資によって、資本性ローン等日本公庫の各種制度が利用できる他、創業者の融資希望額が当組合の融資限度額を超過する場合に、日本公庫に取次ぐことで、満額融資が可能となるなど、創業者への支援の幅を広げている。協調融資商品『未来へのコラボ』を取扱うことで、協調融資の貸付条件を明確化し、担当者としても顧客に協調融資を持ち掛けやすくなった。エ-2 高松信用金庫(香川県)当金庫単独の創業者向けの金融商品である『アドバンス』について、日本公庫との協調融資の場合には、リスクの軽減が図れるため貸付金利を0.3%引き下げている。なお、協調融資の場合に原則無担保融資を実施している地域金融機関は相当数見受けられるところ、当商品を活用する場合、協調融資でない場合にも原則無担保での貸付けを実行している。エ-3 成協信用組合(大阪府)創業者の希望する金額や金利で融資できるよう、当組合の融資商品と日本公庫の融資割合等を柔軟に調整し、申し込みから1週間程度で迅速に実行している。このような対応が可能なのは、日本公庫との関係が良好なのは言うまでもなく、日本公庫との協調融資案件が生じる都度、担当者から支店長まで密に情報共有していること、さらには協調融資実績を当組合の業績評価に際して重視していることが大きい。なお、協調融資後は当組合の渉外担当者が融資先を毎月訪問のうえ、業況把握や経営上の相談を実施し、その結果を『公庫連携モニタリングシート』を活用して日本公庫に繋いでいる。このような徹底した取組みが、さらなるリスク軽減に繋がり、創業関連の協調融資68件のうち、倒産件数は1件に留まっている。オ  融資審査ノウハウの習得による、地域企業の事業内容に対する「目利き力」の向上創業融資は、地域金融機関の立場からすると、事業計画書以外は、参考にすべきものが乏しく、業績や事業の妥当性の判断が困難である。この点、日本公庫は、国民金融公庫時代より、数多くの創業希望者の相談に乗り、創業融資を実行してきた経験から、創業融資に*14) 金融庁「平成28事務年度 金融行政方針」(2016年10月)、p.18-19。際し何に着目すべきかを心得ている。金融庁としても、地域金融機関に対して、担保・保証に依存しない「事業性評価」を推奨する*14中、この日本公庫の審査目線や審査ノウハウに一目置いている地域金融機関は多い。オ-1 昭和信用金庫(東京都)日本公庫との本部レベルでの情報交換会や営業店レベルの勉強会等を通じて、日本公庫から積極的に審査ノウハウを吸収し、目利き力向上に取り組んでいる。オ-2 釧路信用金庫(北海道)日本公庫との協調融資の際、創業者に日本公庫も加えた3者による面談や日本公庫との協議(事業計画書作成支援や役割分担)を実施している。これらの取組みは、日本公庫の創業融資における審査目線に触れる格好の機会となり、融資判断の際にも参考にしている。例えば、ある福祉施設の事業計画作成において、日本公庫は、直近の全国的な事例をもとに、事業が軌道化するまでの期間を過去の類似案件よりも長めに判断するよう提案し、当金庫もこれに応じて資金計画の見直し(運転資金の増額)を行った。実際、入居者が想定より集まりにくかったこともあり、日本公庫の手堅い見通しが効果的な創業支援に繋がった。オ-3 東京三協信用金庫(東京都)東京都新宿区高田馬場(早稲田大学の所在地近く)に本店を置く当金庫は、IT関連やアプリ・ソフト開発、さらには民泊WEB事業等、当金庫の取引業態からは馴染みの薄い業種での若い世代の起業が多い。事業内容についての評価が困難なことが容易に想像できる中、当金庫は日本公庫の知見を活用しながら熱心に創業支援に取り組んでいる。近年では、市場の需要が明らかでない事業について、日本公庫の知見を借りて、海外を含め市場の反応を把握した上で、当時一般的ではなかったクラウドファンディングによる資金調達を行った。当金庫は、こうした個別案件に関する日本公庫との密な意見交換や営業店レベルの勉強会等を通じ、事業性評価のノウハウの蓄積に努めている。なお、このように見ると協調融資は、リスクの軽減を図りつつ、顧客の要望に応えることができるだけでなく、地域金融機関の創業融資における審査ノウハウの蓄積にも有益であることが見てとれる。以上、紙面の都合上、優良事例の一部を取り上げる形としたが、2018年4月24日の全国財務局長会議に12 ファイナンス 2018 May

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