ファイナンス 2018年4月号 Vol.54 No.1
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に、2011年、2013年に比べて、資金流出は比較的早期に収まりましたが、大幅流入に転じるには至りませんでした。4か月後の15年末に米国の世界金融危機後初の利上げがあったことも、こうした動きの背景にあると推察されました(図の中の最も薄い色の線参照)。(注)本稿は、AMRO創設の過程で自分がどう考えたか、アジアの人とどう付き合ってきたかを中心に、言わば見聞録風にまとめるものです。在職時に加盟当局から受け取った情報に関してはその職を離れた後も守秘義務がかかっているため、個別の経済・金融情勢の機微にわたる部分などについては触れることはできず、また記述の中に一部省略などがあることへの理解をお願いします。どこの国が話を進めたとかを評価するのが目的ではないため、日本以外はなるべく匿名(A国など)で記すことにします。本稿の記述は、AMROまたは財務総合政策研究所の見解を表すものではありません。(前 財務総合政策研究所所長)シンガポールに赴任して2年が経過したころ、一時帰国の機会があり、ある財務省幹部と話す機会がありました。自分に会うなり、「南国にいるはずなのに色白でブクブクとしているな。肉体的にも精神的にも悪いものが溜っているみたいだ。」とのことです。任期的にはあと1年だが、更にもう2年延長される可能性があることを話すと、「運動と気分転換で悪いものを体と心から出せ。シンガポールにもゴルフ場はあるだろう。交渉事はなるようにしかならない、ゴルフでもして心身とも健康で帰国すること、これは業務命令だ。」とまで言われてしまいました。その頃月3回のペースでシンガポールから海外出張をしていたため、なかなか決まったメンバーとゴルフに行くのは困難でした。業務命令とあればやむを得ず、伝手をたどってシンガポールのゴルフ場のメンバーにしてもらいました。何年かぶりなので、最初は日曜の夕方5時くらいに行って、7時頃の日没まで9ホールだけクラブを担いで回ることから始めました。たいへん幸運だったのは、数か月後大学時代からの友人がシンガポールに赴任してきて、たまたま自分と同じゴルフ場のメンバーになったことでした。まず、倫理規定の関係があります。職務上利害関係のない大学時代からの友人と、自分の所属するゴルフ場で(当然自分の負担で)ゴルフする訳で、最も倫理規定を厳しく解釈しても問題がありません。スタートの予約の関係でも助けられました。シンガポールはほぼ横浜市と同じ面積で、ゴルフ場の数が限られています。自分のゴルフ場は、週末のスタートの予約についてはメンバー自身が前の週の金曜午後ゴルフ場に足を運んで申し込むこととなっていました。友人の会社は仕事の関係の必要から、メンバーである社員が交替で足を運び予約を取っていました。業務上の予定がなくなった時に自分にお誘いが掛かる訳ですが、自分一人では取ることのできない週末の涼しい朝の時間帯にティー・オフすることができた訳です。赤道直下にあるため日中は35度くらいの気温になりますが、小さな島国のせいか、早朝は25度くらいまで気温が下がります。月に1~2度ですが、汗を掻いて、仕事を忘れることができたのは良い気分転換になりました。友人の会社の若い人がルールとマナーに通暁していて、特にプレイ後に「○○さんの7番ホールの第2打はこう打ったのが良かった(悪かった)」と話し合うのは大きな刺激材料になりました。心から残念なのは、「業務命令」を出した幹部の方が自分の帰国1年前に病気のため亡くなったことです。「助言に忠実に従い、心身とも健康で帰国しました」との報告をすることができませんでした。こぼれ話:南の国のゴルフ事情54 ファイナンス 2018 Apr.国際機関を作るはなしASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)創設見聞録連 載 ■ 国際機関を作るはなし

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